第32話 小型艇を増やそう

ここで言う小型艇とは、30フィート以下ぐらいのシングルハンドで気軽に乗れる艇
の事です。大型艇がいけないのではありません。大型艇もおおいに結構です。もち
ろん当社でも取り扱っています。でも、市場を見ると、どうも30フィートを中心に、それ
以上の大型艇ばかりに目が行くようです。

新艇で小型艇というのは、最近はあまり進水していませんね。それで、今ある小型艇
はどんどん古くなり、誰も見向きもしなくなる。それで、日本の市場レベルが上がって、
大きなヨットの時代になるのかというと、この大型艇も動いていない。当然でしょう。大
きなヨットを日常に動かすには、それなりのパワーが必要です。パワーとは気持ちのパ
ワーです。

欧米では大型艇ももちろたくさんありますが、同時に小型艇もその何倍もある。小型艇
専門の造船所もある。欧米がヨット先進国だからといって、大型艇が日常にどんどん動
いているとは思えません。係留されたままのヨットも多いと思います。でも、ちょっと違う
のは、彼らの遊び感覚はちょっと違う。週末にマリーナに来て、ヨットで過ごしたり、泊ま
ったり、周りのオーナー達と会話したり、そういうコミュニケーションが実にうまい。マリー
ナを歩いていると、一杯飲んでいけとか誘われる事があります。家族や仲間と桟橋に
ヨットをつけたまま、軽いパーティーを楽しんでいる。そういう連中がたくさんいる。だから
週末のマリーナはとてもにぎやかで、ヨットを出さなくても楽しめる。それで、そのパーティ
で何やってるかというと、ごちそうなんか無いし、ほんの気軽なスナックとワインやビール
それもたくさん用意してあるわけでもない。それでも間が持てる。そういう人種なのです。
こういう欧米の人達には、キャビンや設備が必要だし、多いに役にたっている。

一方、日本では、コミュニケーションがへたです。パーティもへた。パーティーと言うとたい
そうにご馳走を用意しなければならないと思う。これではしょっちゅうはできない。今、ある
物だけで過ごそうとは思わない。これは客をもてなしたい心でしょうから、良い事なのです
が、これが返って、気軽なものとできなくしています。結局は民族の違いなのですから、
良い悪いの問題では無い。自分達に合った遊び方をするのが良い。

こういう民族のコミュニケーションの違いは言葉にあるような気がします。英語などは日本
語と違って、皆同じ言葉を話す。謙譲語や尊敬語、男性の言葉、女性の言葉、そういう
日本語特有の言葉というものが、あまり無いので、小学生が老人と同じ言葉で会話をして
います。そうすると、非常にうちとけやすいと思うのです。日本の言葉は複雑で、それはそれ
で素晴らしいのでしょうが、お互いの壁を作ってしまうような気がします。ところが、この壁は
内側に居る仲間では非常に仲間意識が強くなる。ここが難しいところです。

それで、日本人に合う遊び方というのは、欧米人のようなコミュニケーションを取れといっても
無理ですから、ヨットをどのように使うのが最も楽しいかというと。セーリングする事です。よく
別荘代わりなんて言いますが、日本人にはヨットを別荘代わりに使うなんて無理です。得意
じゃ無いんです。気軽なパーティーも無理、どうしても構えてしまう。呼んだ相手に失礼になっ
てはいけないという礼儀正しい気持ちが、気軽さを失わせます。ですから無理なのです。すると
したら、たまにしかできないのです。それで、クルーがたくさん居て、レースをしていた時代は
大型艇が良かった。でも、クルーが居ない時代ですから、本当は小型艇でどんどんセーリング
を楽しむという方向が最も楽しめるのではないかと思うのです。

アンカーをどこかに打って、そこで楽しむ。これも日本人には無理。これを欧米人を得意として
います。たった1本のビールやワインで、延々何時間だって過ごせる人種ですよ。海岸やプール
サイドで読書している連中ですよ。民族が違うのですから、日本人は日本人のスタイルで楽し
まないと、欧米スタイルでは無理がある。それで、日本人にはセーリングして、島回りしたりしな
がら変化を楽しむ事をお奨めしますね。目先の変化だけでは無く、自然の変化、微妙な自然の
変化を自然に感じ取れるのが日本人だと思うのです。絵画の世界で、日本では風景画が非常に
古くからありました。欧米が風景画を描くようになったのは、ずっと後からなのです。それだけ、
日本人は自然に対する感覚が敏感なのです。だったら、それを楽しむのが最も似合っている。

大型艇は自然と親しむだけでは無く、人とのコミュニケーションを楽しむ要素を持っている。欧米人
のようにです。でも、日本人は自然とのコミュニケーションの力がある。それでありながら、気軽に
出せるヨットが少ないとはこれいかに。もっと,小型艇を見なおして、気軽にセーリングができて、
自然を満喫できる方向性を考えた方が良いと思うのですが、いかがでしょう。

次へ       目次へ