第15話 30フィートの呪縛

実に多くの方々が30フィートぐらいのクルージング艇を求められます。解らないでは
無いのですが、昔からそうなのです。ところが、同じ30フィートでも、以前とはかなり
様相が変化してきています。もちろん、長さは同じなのですが、ボリュームが全く違う
幅は広くなり、フリーボードは高くキャビンは広い。スターンも絞らずに、広いコクピット
というデザインになってきています。ですから、同じ30フィートと言っても、大きさは全く
異なるようになりました。

ところが、おかしなもので、30フィートという既成概念がやはり生きているのです。同じ
なのは長さだけであって、その他は大きくなっている。それでも30フィートには違いない
車も同じですね。昔は5ナンバーが当たり前だったのが、今は3ナンバーが当たり前。
大きさを比較して見ますと、確かに大きくなっている。でも、我々は慣れてしまって、その
違いに違和感は無い。大きさも本当は相対的なのです。

欧米のマリーナに行きますと、感覚がずれてきます。大きなヨットが多いだけに、30フィー
トのヨットが小さく見える。こういう感覚こそが、全てを統制しているのかもしれません。
30フィートが大きいか小さいか、30フィートは大きくも無いし、小さくも無い。30フィートは
やはり30フィート、全ては見る人間の側にサイズがあるのではないでしょうか。もし、40
フィートが当たり前のサイズになると、30フィートは気楽なものになってしまうでしょう。

30フィートという呪縛から自分を解き放ち、船を見ることができないでしょうか。ヨットを見る
と、あれは何フィートか?と思います。28フィートと聞くと、これぐらいは最低無いとと思う。
サイズを知って、自分の感覚を合わせる。それが唯一の基準だからでしょう。でも、今の自
分の感覚、いや意識と言った方が良いでしょう。それを見た目に合わすのでは無く、感覚
を大事にできないかと思います。

30フィートであろうが、何フィートだろうが、これは自分に合うサイズだなと思えれば良い。
そういう選択ができれば、きっとぴったりのサイズが手に入るのではないかと思うのですが
では、どうすればそれができるのか。難しい問題です。理屈では無く、感じるしか無い。それ
も頭で考えるのでは無く、感じるしか無い。頭は30フィートぐらいは無いと、と思う。他人のヨ
ットや意見、そんな物を無意識のうちに考えて、本当に自分が感じる事をごまかしてしまう。
考えても解らない。感じるしか無いんですね。これが、やっかいです。他人の事は無視して、
自分の感覚を大切にする。こういう風に意識しておくだけでも、違ってくるかもしれません。
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