第13話 何が良いヨットか?

高品質とか、良いとか勝手に言っていますが、一体何が良いのでしょうか。この言葉は相対的
な言葉ですから、最低のヨット以外はすべて良いヨットになり得ます。ただ、この良いと言うのも
人によって異なる価値観がありますので、これも決め付ける事はできません。速いのが良いと
言う方もおられれば、頑丈が良い、キャビンが広いのが良い、喫水の浅いのが良い、おしゃれ
なデザインが良い、外洋性があるのが良い、いろいろあります。でも、それぞれのプラス面が、
それぞれに反対側にマイナスの面を持っている事は事実だと思います。例えば、良い材料と
されているのは反面値段が高い。サイズの大きなヨットはより楽だ、という反面取りまわしが
大変だ。キャビンの大きなヨットは居住性が良いが風圧面積が大きい。などなど。ですから、
ある物を取ると、その代償として、何かを差し出さなければなりません。それが妥協となります。
何を取って、何を捨てるか、どこに妥協するか、ここが決めてとなります。完璧はありえないので
すから。

さて、それでも一般的に言って、良いとされるケースを考えてみます。頑丈な船体は良いと言って
いいでしょう。頑丈には二種類あります。ひとつは船体の積層が厚く、頑丈である。もうひとつは
全体の剛性が高いという頑丈さです。前者の場合、全てをFRPで厚く積層しますと、かなり重い
排水量となってしまい、とっても走るという次元では無くなるかもしれません。そこで、ストレスが
かかる部位とかからない部位で積層の厚みを変えます。さらに、もっと軽くする為にサンドイッチ
構造と称し、まさしくサンドイッチのように、内外のFRP積層の間にコア材を入れます。厚みを厚く
して、尚且つ重量を軽減する方法です。これは船体剛性にかかります。もちろん、各積層の仕方
によっても強さは変わります。樹脂が多過ぎても、少な過ぎてもいけない。温度管理も必要です。
後者の場合は船体剛性ですが、もちろん積層の厚みも影響しますが、さらに船内に設置される
ストリンガー、骨のような補強ですが、これをどのように製作、設置するかによっても剛性が大き
く異なります。また、造船所によっては船底に接触する全ての部位、バルクヘッドや家具類を全
て、船底に積層し、剛性の強化を図る造船所もあります。これらによって剛性ははるかに変わり
ます。そして、これらのデメリットは手間をかけた分、価格が高くなるという事です。また、こういう
手間の掛け方は大量生産には向かないという点もあります。

次に、船体の素材です。樹脂ですが、殆どの多くはポリエステル樹脂を使います。これが最も安
価だからです。これが良いとされる樹脂になるとビニルエステル樹脂を使います。この違いは水分
の浸透性にあります。長い間係留されるヨットは少しづつ船体に水分が吸収されていきます。これ
がオスモーシスの原因を作ることにもなります。ビニルエステル樹脂の方が水分の浸透率が少な
い。もちろん、ビニルエステルの方が高価である事は言うまでもありません。さらにいきますと、エ
ポキシ樹脂の方がもっと良い。価格も何倍も高い。これの難しい所は、なかなか完全には硬化し
ないという事です。それで、一部のお金にいとめを付けないレーシングヨットなどに使い、硬化させ
る為にでっかいオーブンに入れて焼くのです。

何故、強い船体が必要かとなりますが、例えば、剛性の弱い船体は波によってねじれ、いろんな
所に歪が出てきます。それがトラブルの原因です。あるヨットはハルとデッキの接合面から水漏れ
現象を起こす物もある。これはやっかいです。さらに、マストを立てるリギン類を締めても、ある一定
以上になると、ターンバックルを締めても船体自体が曲がっていくケースもあります。もちろん、どの
ヨットもある一定以上締めるとそうなるのですが、弱い船体は、その一定という力が低い。

これらは寿命にも影響しますし、トラブルの発生率の高さや艇速にも影響します。でも、特別の事
をしないで、ただ頑丈に造れば重い。そうなると走らない船にもなる。ただ、ここで、その反面、強風
時にもリーフせずにどんどん走れるという事も言える。

ここが、デザイナー、造船所のコンセプトを理解する手助けにもなります。ヨットの性格を見れます。

次へ       目次へ