第六十九話 前提は何?

様々な批判や賞賛があります。小さい事を言えば、あそこのレストランは美味いとか、あそこのスーパーの野菜は新鮮だとか、或は、彼は尊敬に値するとか、あれは、これはと誰かが批評を加える。知る事は同時に、それを評価する事かもしれません。だから、世の中は評価で成り立っているのかもしれない。

あのヨットは安い、或は高い、品質が良い、悪い。速い、上り角度が良い。美しい、カッコ悪い。要は全て評価であります。評価は意見であります。意見は事実を見たその人の評価であります。

評価そのものを聞きますと、それなりに正しい。明らかに間違った評価というのは少ない。だから、ややこしくなります。その評価を聞いていますと、なるほどなとつい思ってしまう。でも、全ての評価が正しいのかというと、そうでも無く、結構違うなと思う事は多い。

何故そうなるかと考えますと、多分、評価の前提がどこにあるのかという事が問題ではなかろうか?その前提ならば正しいが、前提が変わると間違い。その前提がどこにあるかが解らない事が多いので、納得してしまう。

価格は需要と供給によって決まる。いくら安くても、品質が使用に耐えないようでは売れなくなる。また、高価格に対して、品質が伴わない場合でも、売れなくなる。それは市場が評価する。但し、品質が伴う場合でも、高価過ぎて、それを買える人が少ない場合も、市場には残れない。

つまり、市場に長く残っているというヨットは、市場が評価して、一定の価値を認めた事になります。そう、市場が評価した。それは、価格と品質なりを良しとした。という事は、何を前提に評価したのかが重要であります。市場にある物は一応は正しいとされる。しかし、どういう前提においての評価なのか、その前提は自分の求める価値なのか? その前提が違えば、自分にとって価値は無い。

プロダクションヨットの安い物と高い物では、2〜3倍の価格差があります。その安い物も高い物も市場が認めています。そこには理由がある。セミカスタムならもっと高いし、完全カスタムならさらに高い。価格は品質と釣り合っているという前提があります。

さらに、品質と言っても、そのヨットの目的は何か?その目的という前提においての品質と性能はどうなのか?これがバランスが取れていないと、市場は価値を認めない。

時々、あるヨットの評価を聞いたり、読んだりするにあたって、ちぐはぐな感じがする事があります。その評価はそのコンセプトという前提において、正しいのか? そのヨットがクルージング艇なら、クルージングと言ってもいろいろありますから、どういう使い方において、どう良いのか悪いのか?その前提を明らかにした上で、評価をする必要がある。そのコンセプトを見つけ出して、そのヨットに最も相応しい乗り方はこうだという評価の仕方は良い。進化し続けるヨットは、そのコンセプトにおいても細分化されていきます。

このヨットの主たる使い方は、こういう具合と明らかににする。主たるですから、そのほかにも使える。でも、最もそのヨットの威力を発揮できる部分は主たる使い方においてです。クルージングにも、セーリングにも、レースにもいろいろあって、そこの前提を明らかにする事は、そのヨットの主たるコンセプトを見出すという事。もうそれだけで、十分な評価になるのではなかろうか?

但し、その前提が間違ってしまうと、その評価は見当違いになる。だから、その前提が正しいのかと見る事になります。だから、評価するにも、おおいなる想像力が必要かもしれません。そうでないと、前提の想像が貧困になる。進化し続けるごとに、細分化されていく前提は、常に想像力を要求する。その前提に、自分が乗っかるかどうかは、また別の話。

という事は、自分の前提をしっかり考えておく事が最重要課題になると思います。レースしないから、単純にクルージングという大雑把では駄目でしょう。具体的に考える必要があります。レースしないといっても、たまにお祭りレースには出るかもしれないし、クルージングと言っても、どの範囲とか、何人とか、何日かけられるか、年に何回行けるとか、どういうクルージングを前提とするか?
レースでも、セーリングでも同様かと思います。それさえ決まれば、殆どは決まったような物。全てが明らかになる。

しかし、想像と実践は異なる事がある。一般的には、想像は理想となり、あれもこれもとなりがちです。でも、実際は必要無かったという事が多い。だから、なかなか難しい。だから、買い換えるという現象がヨット界には普通の事になる。また、年数が長いので、その間の環境も変わる。その環境のせいでも買い替えるという現象が起こる。でも、将来は買い換えるだろうから、今は適当に何でも良いというわけにはいきません。将来の為にも、今が大事なのであります。だから、将来は兎も角、今はこうしたいという事で良いんじゃないかと思います。楽しむのは今でしょう。

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