第八十六話 中庸

一般的にセーリングを楽しむという場合ですが、中庸という事が当てはまると思います。中庸というのは、レーサー程軽いのは、いくらバラストを重くしても、全体重量が軽いので、それには限度がありますし、クルージング艇はバラストを重くする事はできますが、全体重量が重くなり過ぎるので、パフォーマンス的にもう少しほしい。ですから、中庸であります。

以前、アレリオン28の取材を受けました時に重量が2.5t と答えましたら、それ程軽くないな〜と言われた事があります。しかし、一般的にですが、デイセーリングを楽しむという点においては、軽すぎるのは良く無いと考えます。何故なら、上記しましたように、いくらバラスト比を高めても、実質バラスト重量は軽くなる為です。これはまだ日本にデイセーラーというコンセプトが浸透していないので、無理からぬ感想だとは思います。

軽いヨットでセーリングパフォーマンスをあげたい。しかし、同時に、強風時においても、そこそこ強いセーリングを望みたい。それが一般セーラーの本音ではなかろうかと思います。ですから、軽すぎるヨットを避け、強風には少し強めで、それ以上なら、シングルラインリーフという簡単操作で対応します。そして、微風に不満なら、微風用のセールを一枚加えれば良いのではないでしょうか?
それが、一般セーリングには最も適した考え方ではなかろうかと思います。超軽いヨットも良いのですが、一般的ではなかろうとは思うのですが。

DINAMICA 940 というヨットがあります。これはデイセーラーではありますが、レーサーのポテンシャルを持ったヨットで、最近ではヨーロッパを中心に、瞬足デイセーラーとして人気が高まっています。彼らは、ワンデザインのレースを楽しみ、それ以外はシングルハンドやファミリーでのセーリングを楽しんでいます。このヨットのデータを見ますと、下記の通りです。

排水量:2,200kg バラスト重量:1,170kg 31フィートにしてこの重量ですから、非常に軽いです。従って、瞬足である事が推察できます。セールエリアについては3パターンが用意されており、
A)ノンオーバーラップジブ+通常のメインセール : 49.30u
B)セルフタッキングジブ+スクウェアートップメイン : 55.5u
C)ノンオーバーラップジブ+スクウェアートップメイン :59.80u

SADRは A)が29.5 B)は 33.2 C)は35.8です。 排水量が軽いだけに、これらの数値は全体的に高く、レーサーのポテンシャルと言って良いと思います。それで、各セールエリアをバラスト重量で割ります。
A) 0.042 B) 0.047 C) 0.051 こういう数値を得る事ができます。 造船所に聞きますと、セールエリア B)において、シングルハンドのクローズは約15ノットぐらいでリーフを考えるそうです。そうか、あまり腰が強くないな〜と思われるかもしれませんが、でも、全体的に考えて、他のデイセーラーより圧倒的なスピードを持っています。そして、強風に対しては、リーフすれば良い。何てことは無い。だから、そのリーフはコクピットから操作できるシングルラインリーフにしている。

要は、スピードを求めるなら軽く、その中でできるだけバラスト重量を高める。実際、53%のバラスト比です。そして、それ以上の強風に対してはリーフすれば良いだけという考え方になります。

一方で、もう少し重いヨットの場合は、バラスト重量も高められます。その分、強風に強くなります。
しかし、一方で、微風に弱くなる。それで、通常のジェネカーの代わりに、微軽風用のセールで対応するということもできるわけです。

一般的には、レーサーのポテンシャルまで求められることは無いと思いますので、中庸のポテンシャルが良いのではなかろうかと思う次第です。実際、多くのデイセーラーは中庸の域にありますし、ハイパフォーマンスクルーザーもその中にあります。この二つの違いはキャビンもありますが、加えて、シングルハンド仕様かどうかという事になります。

ここから、少し離れていくのが、レースをもっと意識したヨットという事になっていきます。そうしますと、SADRはもっと高くなり、SABR(セールエリア÷バラスト重量)ももっと数値が大きくなります。当然もっと速くなりますし、強風に対してはセールチェンジ、クルーの体重移動、それが無いにしても、リーフをすれば良いわけですから、何も問題は無い。重要な事はそれらが解っている事ではないかと思います。

*SABRは勝手に作った計算式ですので、一般的にあるわけではありませんので、悪しからず。

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