第七十七話 革新

技術は革新され、確実により良い物になっていきます。軽くて強いとか、そういう相反する要素を確実に現実のものとして革新されていきます。素材もそうですが、工法的な技術面においても同様かと思います。

船体を建造するに、職人によるハンドラミネートから、バキュームバッグ方式、さらに樹脂比率のコントロールを可能にし、このより軽くでも強くが実現されてきます。ですから、確実に、昔のヨットより、現代の技術を使った工法の方が、軽く、強く造る事ができると思います。

但し、これとは別に、そのヨットを使う側のソフト面での変化というものがあります。この場合は、必ずしも良いかとは言い切れず、これは考え方の違いでもありますから、一種の流行り的なものもあります。ですから、時代によって変わり、昔に戻る事もあります。

丁度、ファッションと同じで、昔流行ったスタイルが、再び登場するような事もあるわけです。ですから、技術革新は確実に向上していきますが、使うソフト面は、新しいから良いという発想よりも、自分スタイルを見ながら、見極める必要があるのかもしれません。さらに、ヨットはファッションとは違い、毎年の流行に買い替えるという事は無いし、サイクルは非常に長い。流行りというより、多様化と言った方が良いかもしれません。

流行は大手のビルダーが造りだす量産艇が鍵を握っていると言っても良いかと思います。彼らが、キャビンをでかくしていく。それが一般のクルージング艇というイメージを抱く事になります。ですから、クルージング派はこぞってそちらに向かう事になり、どこのマリーナでも良く目につくようになります。流行ってるな~、って感じ?

しかしながら、そういう量産艇がどういう方向に向かっているのか? それをじっくり見る必要はあるだろうと思います。彼らが、クルージングを強調し、広いコクピットとメインシートのトラベラーを撤去し、そこに大きなテーブルを配置する。確かに、これはこれでひとつのアイデアである。でも、別な見方をすれば、セーリングとしてはやりにくくなっている。確かに、大きなコクピットテーブルが配されたコクピットは、クルージングでの皆で囲む楽しさをイメージするに難しく無い。しかし、同時に、追い出されたメインシートトラベラーは、どういう影響を及ぼすかも考えた方が良いかもしれません。それらを全部考慮したうえで、どうするかを決める。

量産艇がリードするクルージング艇が、新しいクルージング艇の正しいあり方というわけでは無いし、どこにも正しさとか間違いは無く、どう捉えるかという事次第かと思います。以前、こういうクルージング艇が、セーリング離れをおこしたと書いた事がありますが、それは今でも事実かと思っています。でも、セーリング離れが良いか、悪いか、という問題では無く、ただ、そういう事実があるというだけで、それを選択する側が自分にとってはどうかと判断すべきものだと思います。

何でも選択は自由、でも、本当に自由に選択しているかどうかが問題です。これがクルージング艇という事では無い。クルージング艇のひとつのあり方に過ぎない。

全てには、判断する為の基準が必要になります。その基準においては、革新があり、良くなっています。でも、その判断基準が必要な方には、確実に昔より良いと言えるでしょう。しかし、その基準が自分に合わなければ、良いとは言えません。その基準において、より追求すればするほどに、他の基準におけるマイナスを生み出す事があります。そこも見ておく必要はあるんだろうと思います。

ファッションのように、毎年買い替えるなら別でしょうが、そのヨットをこれから10年、或いは、もっと使うかもしれません。そういう意味では、そのヨットの基準は何か?それで得た物は何で、無くしたものは何か? そういう事も考慮して、自分のスタイルと照らし合わせて考える方が良いかと思います。。そのうえで判断したものなら、これから長く使うにあたって、それこそフィットするのではないでしょうか? 

素材や技術は、どれが良いという事は言えると思いますが、使い方のソフト面では、どれが良いという事は言えないわけで、レースがクルージングより良いとか、その逆とか、そういう事実はどこにもないわけで、ただ、使い方の好み次第、スタイル次第。 好みは各個人のDNAから来るだろうし、スタイルは家族構成や、仕事とか、そういう環境からも来る。良いDNAとか悪いDNAとかは無いわけですから。

何故、こんな事を言うかと言いますと、広いキャビンにあこがれて購入された方が、その広いキャビンを殆ど使っていない。それも例外では無く、普通にあるからです。もっと違うヨットを選んだ方が合うのではないでしょうか? そう思う事は多いです。 クルージング艇にもいろいろあります。そう言いたいわけです。 決して、広いキャビンが悪いと言っているわけではありません。使い方さえ合えば、良いわけです。合うか、合わないか? それだけが問題です。 全てのヨットは、そのコンセプトにおいてはみんな良いヨットなんだろうと思いますから。

技術は進化し、使い方は多様化する。だから、使い方をもっと吟味しなければならないのかもしれません。

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