第五十四話 ストレス

風が強くなれば、それだけヨットには強いストレスがかかります。そして、スタビリティーが高いヨットの方が、低いヨットより、より大きな風の力に耐える事ができます。ですからより快走を味わう事ができます。という事は、より大きなストレスに耐える力が必要ということになります。

セールエリアが同じ二つのヨットを考えます。この二つのヨットの違いは、スタビリティーです。ひとつはスタビリティーが高く、もうひとつは低いとします。解りやすく考えますと、例えば、両方とも50uのセールエリアがあるとして、1uに対して10kgの風の力がかかったとします。するとセール全体での合計は500kgという事になります。これが風が2倍強くなって、1000kgになったと仮定し、片方はフルセールで走れなくなり、リーフしてセール面積を40uに落としたと仮定した場合、かかる力は800kgという事になります。そして、もうひとつのヨットはフルセールで走れる場合、かかるパワーは1000kgという事になります。もちろん、この数値は適当に解りやすくした数値です。

つまり、俗に腰が強いと言われるヨットは、その分、風のストレスをより多く受ける事になりますので、相応の船体強度が必要になります。この事は、スポーツカーを考えても同じです。高馬力エンジンを搭載した車では、それだけでは済まず、応分のボディー剛性が必要となり、足回りが必要となり、ブレーキングが必要となり、そうでは無いと、思うように走れなくなります。

マストにかかる力、マストを支えるスタンディングリギン、そのスタンディングリギンはデッキのチェーンプレートを通じて、タイロッドにかかり、そのタイロッドは船体に繋がっています。という事は、リギンを通じて、ストレスは船体にかかってきます。ボディー剛性を高めないと思うようには走ってくれない事になります。

ハル自体の構造や工法がそこに影響するわけですが、その分手間がかかる事はいうまでもありません。また、スタビリティーが低いヨットにしても、クルーの体重移動を前提にするようなレーサーなんかでも同じ事が言えます。より強い風でも、より大きなセールで走れるという事は、ストレスが大きいですから。

船体はさらに波によってもストレスを受けますから、造船所は船体しか造らないと言っても、最も大事な部分なのだという事になります。最近では、サンドイッチ構造が普通になってきましたが、この事で厚みをつける事ができ、厚い事で剛性を高める要素にもなりますし、中身は軽い素材のバルサとか、デビニセルとかで、重量を増やさないで、厚みをつけます。さらに、バルクヘッドをハルに直接積層したり、ストリンガーを作成して積層したりして、剛性を高めます。また、造船所によっては、できるだけインナーモールドを使わずに、内装家具類を船底に積層して、さらに強度を高めるという事もやっています。

つまり、速く走るというのは、それだけストレスもかかり、従って、ボディー剛性を高める必要がある。そして、その事によって、さらに滑らかなセーリングをももたらしてくれます。ですから、セールフィーリングも違ってきます。また、より快走フィーリングも得られるという事になります。

ボディー剛性が柔らかいと、そのストレスの大きさに対して、船体がゆがむ。それでも走れない事は無い。ただ、走るフィーリングが違ってきます。そして、強風の時のみでは無く、いかなる場合でも、実際はフィーリングが違ってきます。硬い船体は、滑らかさを感じます。

ヨットが、移動手段である時と、走る手段である時とでは、考え方が違ってくる。似て非なるものという事になります。セーリングはスピードのみならず、走っている最中のフィーリングをも大事にする事になると思います。

この事は、例え小さなセール面積であったとしても、そのヨットがフルセールで走れる風速がどの程度まで、スタビリティーとして耐えられるのかという事になりますから、それに応じての剛性が要求される事になります。ヨットはいつも強いストレスに耐えていますね。でも、これらは目には見えない要素です。構造とか工法とかによって、これらが決まってきます。

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