第五話 船体

セールを支えるのが船体です。良い風が吹いてきて、上りでビュンビュン走りたいと思っても、セール引き込んでとか思っても、船体のスタビリティーが低いと、オーバーヒールになってしまい、宜しくありませんので、風を逃がしてやらなければなりません。それが、スタビリティーが高いなら、そのままビュンビュン走れる範囲は広くなります。

という事で、船体の重心が低い方が良いわけです。それで、バラストの重量を大きくします。すると今度は全体の重量が重くなってしまいます。これはこれでいけません。ならば、船体重量を軽くしようと考えます。それで、FRP積層を薄くしますと、今度は船体がぐにゃぐにゃ曲がります。これもいけません。ぐにゃぐにゃはオーバーな表現ですが、でも、ねじれています。

そこで、FRPの間に軽い物をサンドイッチにして、強固に接着して一体化すれば、軽くても厚みはありますから剛性は強くなる。もちろん、ストレスがかかる部位にはサンドイッチはしていません。
これで、重心は下がるし、全体重量も増えない。或いは軽くなる。このサンドイッチ構造は、現在は多くの造船所が採用しています。それも接着は全体にカバーをかけて、真空ポンプでエアーを抜き、気圧で圧着する方法が、だいたいとられます。この圧は以外と大きな圧です。それに接着剤も良くなった。

ちなみに、チークデッキを張る時、昔は、ビスでデッキに固定していました。しかし、今日ではそんな事はしません。長年の経年変化で、ビス部分から水漏れする事があるからです。現在は、接着剤を塗布して、真空ポンプでバキューム接着をします。ビスは使いません。

真空ポンプで圧着はしますが、SCRIMP工法というのがあります。これは同じ真空状態にしますが、ガラス繊維に染み込ませる樹脂の量をコントロールできるというものです。樹脂量は、ガラス繊維に対して多すぎても、少なすぎてもいけないとされます。それが適当では無く、ちゃんとコントロールできる工法です。それができる事によって、通常の職人によるハンドレイアップという工法の2倍以上の強度を得る事ができるとされます。アレリオンがそれなんです。

樹脂は一般的にはポリエステル樹脂が使われます。安いからです。でも、水分吸収率が高い。まあ、高いというのは他の樹脂との比較です。長い年月において係留されていますと、水分を船体が吸収するんですね。そこで、もっと良いのが、ビニルエステル樹脂です。さらに良いのがエポキシ樹脂です。もちろん、値段もどんどん上がります。船底塗装の前に、エポキシでコーティングして、それから船底塗装をするという方法もあります。まあ、これは長年の後に起こる影響です。

さて、今度は船底形状です。幅が広くなりますと、船艇はフラットになっていく。フラットになりますと滑りやすくなります。ですから、同じ風でも、より速く走れます。ところが、フラットな船底は波にぶつかると叩きやすい。船体強度があまりないと衝撃は大きい。逆に、フラットで無い、ちょっと角度があるような船型なら、波に対して柔らかくなります。でも、スピードを出すにはよりパワーが必要になります。そこで、デザイナーはいろいろ工夫するわけですね。前側を少し角度を持たせて、エントリーを柔らかく、後部側をフラットにしていくとか。でも、あまり性能重視では無い場合は、角度をつけるとキャビンが狭くなりますから、フラットにしているヨットも多い。これは速く走る為というより、キャビン確保かな。

レーサー、セーリング、クルージング、外洋等によって、形状は違うし、重量も違うし、構造も違う。これらは後で調整するというものでは無いだけに、最初に考慮されなければなりません。でかいから外洋艇、小さいから沿岸用とは言えません。その逆もあります。それで、その造船所が、各モデルの違いでは無く、どんなコンセプトのヨットを造っているのかという事になります。外洋艇の造船所は、大きかろうが、小さかろうが、同じ作り方をしています。沿岸用の造船所も同じです。もちろん、あるモデルのみ、これはレーサーですとか、何とかうたう事もありますが、そういう言及がなされない限りは同じとみて良いかと思います。ですから、サイズの前に、造船所のコンセプトを見る。

コンセプトを見れば、だいたい決まってきます。同じコンセプトで、他の造船所のヨットとも比べて、好きなヨットを選ぶ。それでだいたい良いかと思います。まれにですが、その造船所のあるモデルだけ、どうもバランスが悪いとか、そういう事も無いでは無いのですが、それは実は解りません。
オーナーに聞いても、悪い事は言わないでしょうし。でも、あるひとりの意見だけを鵜呑みにもできません。まあ、気に入ったら、信じるしかないでしょうね。でも、そんなにあるわけではありませんから、あまり心配されないで。逆に、あるモデルだけ他のモデルより、何かバランスが良いとか言う事もあります。もちろん、どちらにしろ、極端に違うわけではありません。

ヨットがセーリングだけを考えた場合、作り手はプロですから問題は無いのでしょうが、極端にキャビンをでかくしたりで、それ以外の要素が入ってくる。どこかに無理があるとバランスを崩しかねない、そういう事ではないかと想像します。あるデザイナーの話ですが、デザイナーがデザインをして、造船所が勝手に、少しそれを変更する場合もあるとか。そういう時でしょうね。

必要な装備は、エンジン。プロペラがシャフト式かセールドライブか?最近はセールドライブが多くなりました。水漏れの心配が無いですし、多分、プロペラは水平に出ますから、効率も良いんだろうと思います。それから、トイレとビルジポンプ。後はお好みでしょうか。

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