第四十七話 データ比較

一般的にクルージングとして使われるヨットと、この私が言うハイパフォーマンスヨットと、具体的にどう違うのか?そこが疑問になります。そこで、データを比較してみてみたいと思います。

ヨットA: 誰もが知るクルージング艇です。高いフリーボートで、広いキャビンを持つ、近頃の典型的クルージングヨット。私が言うところのキャビンヨットであり、別荘&沿岸クルージングです。
断っておきますが、これが駄目と言っているわけではありません。このヨットの別荘的性能が日本には合わないのではないかと思うだけです。サイズは34フィートです。

ヨットB:ハイパフォーマンスのクルージング艇です。前話の写真のヨットです。サイズは34フィート
同じサイズです。

キャビンの広さについては、ヨットAが広いです。これは当然です。そういうヨットですから。ここでチェックしたいのは、帆走性能と操作性です。そんな事に興味無いという方は、無視してください。あくまでセーリング&クルージングという使い方が面白いのではと思うからで、セーリングにご興味がある方を考えています。

セーリング性能を考えた場合、いろんな要素がありますが、まずは、セールパワーです。排水量に対するセール面積を考えます。まずは、それぞれの セールプラン、I J P Eのデータからセール面積を出して、排水量比での数値を出します。数値が高い程、排水量に対してのセール面積が大きいという事になります。

ヨットAの場合、数値は16.2という数値を得ました。これはあくまで、セールプランの三角形での計算です。これは異なるヨットのポテンシャルを比較するのに使います。これに実際にどんなセールを使うかによって性能は違ってきます。このヨットに造船所仕様のメインセールと仮に一般的サイズの130%のジェノアを設置したと仮定して計算しますと、21.4という数値を得ます。150%
なら、23.2です。

ヨットBの場合、基本数値は21.9です。これに、造船所指定のメインと仮に106%のジブを設置して計算しますと、数値は23.93になります。既に、ヨットAの150%ジェノアの場合の数値を上回っています。

もちろん、これだけで決めつける事はできません。今度は、このセールパワーを支える船体側のスタビリティーについて考えます。キールを除く船体自体の重心のデータはありませんが、これはあきらかにキャビンの大きな船体であるヨットAの方が重心が高いと見て良いと思います。それに加えて、バラスト重量です。

ヨットAのバラスト比は26.7%です。一方、ヨットBのバラスト比は39.6%です。船体のフォームスタビリティーというのがあります。ヨットAの方が20cm幅が広いです。これがどれだけの作用をするかという事もありますが、あきらかに、それでも、ヨットBの方のスタビリティーの方が支えるパワーが大きいと思います。

ヨットAの150%ジェノア時の総セール面積は72.45uになります。一方、ヨットBのメイン+106%ジブとの合計セール面積は67.2uです。面積としては、こちらの方が小さいです。でも、そのセールパワーが引っ張る船体重量で言えば、ヨットBの方が遥かに軽いのです。ですから、小さな面積にも拘わらず、ヨットBの方がポテンシャルが高いです。その分、取扱いも簡単になります。もちろん、ヨットBに130%でも設置すればもっと速くなります。

ヨットAに150%ジェノアを設置して、ヨットBには106%のジブを設置、これでも少しヨットBの方が速い。強風においても、支えるスタビリティーは全然違いますから、どっちが楽に操船できるかは明らかです。

重量差は、構造と工法によります。強度についての数値的データはありませんが、明らかにハルの硬さはヨットBに軍配があがると思います。

今度は操作性という点を見ます。ヨットAは当然ながら、メインシートのトラベラーはキャビントップにあります。この場合、ブームの中間部からシートがリードされ、キャビントップウィンチにリードされます。この位置関係からも、シートを引く場合、より大きな力を要求します。一方、ヨットBはステアリングホィールのすぐ前にトラベラーがあり、ブームエンドからリードされますから、より少ない力でシートを引く事ができます。

おまけに、腰の強さはヨットBの方がはるかに優れていますから、少人数でのセーリングにおいては、明らかにセーリングがし易くなります。

本来、これら違うコンセプトのヨットを比較する事自体が間違っているのですが、ここでは、一般的にクルージングとして使われるヨットと、ハイパフォーマンスクルージングヨットとの違いを明らかにして、使い勝手は、本当はどうなのかという事を考え、使い方によっては、セーリング+クルージングという意味においては、従来の選択の仕方で良いのか?という提案であります。

ヨットAが駄目という事では無く、使い方がずれていないか?という事です。ヨットAを別荘的に使い、時々クルージングに行くというのならお勧めです。いっそのこと、メインファーラーにした方が良いと思います。でも、そういう多くのヨットが、別荘的に使われていないという現状を見ますと、やはり欧米人とのスタイルが違うので、それならセーリング+クルージングと考え、セーリングするなら、もっとセーリングが性能が高い方が面白いと思う次第です。しかも、操作も楽なのです。

先日、デンマークからの来られた方の話を聞きましても、週末は家族でヨットに泊まる。時々出して、入り江にアンカー打って、コクピットでビールやワイン、海水浴、ちょっと近場に出しても、寄る場所がいろいろある。それに、長い夏休み。そういう事を考えますと、日本人のスタイルとは違うので、ヨットがあまり動かないというのは納得できるような気がします。欧米でもヨットがそんなに動いているかと言いますと、それも違う、やはりあまり動いていない。でも、彼らは別荘的に使う天才ですから、マリーナはいつも賑やかです。単にスタイルの違いからくる事かもしれません。

結論として、ダブルハンド程度で、スイスイセーリングして、気楽にハイパフォーマンスを遊ぶ。そういう事を楽しみながら、たまに家族や仲間とクルージングに行く。そういうスタイルの方が、日本人には合うような気がするんですが、いかがでしょうか?

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