第四十四話 工法今昔

職人さんが、ハルを積層し、その腕で脱泡と余分な樹脂を取り除く。そういうのが一般的な作り方でした。すると、これはその職人の腕の差が出てきます。もちろん、職人以外では尚の事。そこに、今度は、職人さんがやっていた脱泡と余分な樹脂を取り除くという作業を、全体にビニールでカバーして、真空ポンプでエアーを抜き取って圧縮し、空いた数か所の穴からエアーも樹脂も抜け出る。バキュームバッグ方式がとられるようになります。

このバキュームバッグ方式における圧着は、非常に強力で、慣れてしまって、我々にはその力を感じる事はできませんが、相当な力で圧縮されます。それで、最近では、チークデッキを張る時、昔は、タッピングビスでデッキに固定していましたが、今日では、このバキュームバッグ方式で、ビスを一切使わない工法が取られます。もちろん、接着剤の質が良くなったという事もあります。完全に接着です。このメリットは、将来に渡って、ビスが無いので、トラブルが少ない。

さて、さらに進んで、このバキュームバッグ方式に加えて、最初からグラスと樹脂量の最適な比率をコントロールできる方式が取られます。ビニールカバーをかけて、片方からエアーを抜き取り、片方からは樹脂を送り込むやり方です。片方と言っても一か所では無い事は当然ですが。

  この方式によって、グラスファイバーに対する
  樹脂含有比率を計画通りにする事ができる。
  この最適な比率は、もちろんこれもコントロ
  ール技術というものが必要ですが、樹脂が
  少なくてはいけませんし、多すぎてもいけま
  せん。
  これを最適にコントロールする事によって、
  レーサーのプレプリグ工法に匹敵する強度
  を作る事ができると言われます。

  さらに、艇によってのバラつきも最小限にする
  事ができるでしょうし、軽く、でも強くが実現
  できます。


こういう工法の進化によって、重量を軽く、強く作る事ができるようになりました。さらに、今日では
FRPの単板という事は少なくなり、多くがバルサやデビニセルといった軽い物をFRP間に挟み込んだ、サンドイッチ構造をしていますが、こういう構造にもバキュームバッグ方式は良い。昔は、
間に挟んだコア材とグラスとの接着が問題にもなりました。

という事で、昔のヨットより、今日のヨットの方が軽く作る事ができます。それでいて、昔のヨットと同等か、或いはそれ以上に強い船体を作る事ができるようになりました。そういう意味では、セーリング性能としては、今日のヨットの方が速いと言えます。

軽く、強く作れるので、重めのバラストを設置し、スタビリティーを上げる事ができますし、それに応じたセールプランをデザインする事ができます。セーリング性能は確実に上がっています。

さらに、バルクヘッドを船体に積層接着し、床下の補強材も積層接着すると、剛性も強くなる。セーリングにおいて、軽い方が良い。でも、強くなくてはいけません。それがスピードを生み出しますし、波に負けないグッドフィーリングをもたらします。おまけにスタビリテイーも高いなら、軽風でも、強風でも強いヨットを生み出す事ができます。  

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