第三十三話 別荘となり得るか?

キャビンヨットはクルージング用ですが、実際はそうしょっちゅうクルージングして回る事は無い。それで、もうひとつの使い方である別荘的使い方は、どうでしょうか? 果たして、それが成立するのか?

ひょっとしたら、そのヨットを購入される時、業者から別荘としても使えますよ、てな文句を聞きませんでした?実は私も、そのようなセリフを吐いて、営業をした記憶があります。昔です。
しかしながら、残念ですが、実際にそういう使い方で、しょっちゅう楽しんでいる方はおられませんでした。1回や2回、泊まる事はあっても、それがレギュラー的になり得なかった。

欧米人の人達は、そういう別荘的使い方が得意なのです。最近、北欧から来られた方からの話を聞いても、やっぱりそうで、毎週のようにヨットにやってきて、のんびりビールなんか飲んでたり。ヨットを動かさないでも、そういう楽しみ方をしている人は多いようです。

多分、欧米と日本のヨットの使い方の大きな違いはこれではないかと思います。彼らが、みんながみんなレースしたり、クルージングしたりしているわけでは無く、ヨットを別荘とみなして、そこを楽しんでいる。だから、マリーナに行けば、平日でも、結構、人が多い。

一方、日本はと言いますと、そういう遊び方をしている人は実に少ないと思います。ヨットに泊まる人は少ない。ヨットで読書している人は少ない。たまにはしますが、毎週なんてやってる人は少ない。彼らは、家族でそれをやる。ヨットで編み物をしている女性を見た事があります。

国民性の違いなんでしょうが、人が集まるから、周辺にいろんな物ができます。レストランやバーや、いろんな物ができる。集まるからできるのか、いろんな物があるから人が集まるのか?それは定かではありませんが、多分、人が集まるのが先なのではないかと思います。

日本で、この別荘的使い方が定着するのなら、恐らく、マリーナには人が多く集まるに違いない。すると、レースに出る人、クルージングに出る人、そういう人達の割合も増えてくるのではないかと思います。果たして、それが日本人にできるのか?

ヨット本来の使用方法では無く、別荘的に使うのが、ヨット人口拡大のひとつの方法というの変なものですが、実際、それはあるだろうと思います。試しに、毎週とは行かないでも、月に1回とか、2月に1回とか、家族で泊まりに行かれたらどうでしょうか?ヨットで、ご馳走作ってとかになりますと、たいそうで、奥さんは嫌がるかもしれませんから、途中で買い物して、できあいのものとかで、殆ど片付けしないでも良いようにとか。或いは、こういう時だからこそ、ご主人が料理担当してとか?
出前とっても良いかもしれない。

泊まって、何をするか?それが問題ですね。日本人は何かをしないと間が持てない。これが大きな違い?欧米人は、何かをしているのか? 多分、何もしなくても過ごせる。お話で時を過ごせるのではないか?パーティー文化を持つ彼らです。でも、まずは、やり始める。そこから何か新しいものを生み出せるかもしれません。最初から、何するかと考えるより、まずは始めて、それから、いろいろ考えていっても良いのかなという気がします。

そう言えば、もう30年ぐらい前でしょうか、アメリカのある家に泊まっていた事があります。そこには裏庭があって、サンルームのような部屋がありました。そこで、殆ど毎日、夕方になると、みんな座って、ビール一本持って、お話するわけです。毎日ですし、殆ど同じメンバーですし、話題もそんなには無いはずですが、それでも、何やかやと話をする。そういう文化なんですね。パーティー文化です。こういう使い方をヨットでやる。

デイセーラー推奨者の私が言うのは変ですが、そういうヨットが増えて人口が増えれば、それはそれで、デイセーラー愛好者も増えるでしょうし、ヨットの違いが強調されるかもしれません。とにかく、増えるという事は良い事でありますから。

キャビンヨットのオーナーは、是非、試して頂きたいです。デイセーラーのオーナーにしても、キャンプ気分でやっても良いですね。セーリングは簡単ですから、ちょいと気軽にセーリングしてきて、その夜は泊まる手も有り。或いは、泊まって、早朝のセーリングというのも悪く無いと思います。
兎に角、趣向を凝らして、いつもと違う事をやってみる。コクピットで酒飲んで、語らって、夜は泊まって。それじゃあ、やっぱり音楽ぐらいはほしいかな。キャンプの定番はカレーです。じゃあ、カレーでも作ってみますか?ちょっと凝ったやつとか?

とにかく、どう使うかなんて決まったわけでも無し、全てはオーナーの遊び心次第です。何でもやってみましょう。でも、セーリングは欠かせませんね。バリエーションはたくさんもっていた方が面白いと思います。そこにキャビンがあるわけですから、泊まら無い手は無い。ここでも、重要な事は、気軽にやる事かと思います。何度もやる為に。

日本の場合、何かやるとなりますと、事が大きくなり過ぎる傾向にあるように思えます。誰かを招待したり、家族でもです。ご馳走の準備だとか、そういう事が大きくなり過ぎて、2度目がなかなか来ない。それより、いかに気軽にやって、何度もやれるか?それを欧米人は気軽にやってます。
でないと、長い年月において、何度も使えなくなります。

しかし、こんな事を書きながらも、この数十年の間に、そういう使い方が一般化しなかった事実、たまにする事はあっても、それがレギュラー的になったり、家族の楽しみのひとつになってこなかった事実、それは何を意味するか? この先の未来は誰にも解りません。しかし、恐らく、別荘的使い方が、主役に躍り出る事は無いだろうと思います。つまり、欧米人との根本的使い方の違いはここにある。この事が、日本市場を制限しているとも言えなくもない。

あるオーストラリア人、週末の夕方、みんなが帰っていく姿を見て、何でみんな帰るの? 明日は休みでしょう?そう言っていた言葉を思い出します。週末なら、大抵はみんなヨットに泊まる。それが彼らの普通の使い方だそうです。

つまりは、キャビンヨットを持ってきて、欧米流を目指すのは方向が少し違う。日本ではキャビンを主役としては充分楽しめない。ならばどうするか?それで、デイセーリングを主役として、キャビンを脇役とする。それが最もフィットするのではないかと思う次第です。

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