第八十七話 クルージング

圧倒的にクルージング艇志向が強いのが現状です。マリーナに行けば、ほとんどがそういうタイプのヨットです。しかしながら、クルージング艇は日本では流行らない。ちょっと極端な言い方かもしれませんが。

一部の冒険家を除いて、一般的なクルージングを考えますと、近場にいろんな立ち寄り箇所がほしいです。ヨットがつけられる桟橋があって、上がれば、そこにしゃれたレストラン、美しい風景、いろんなスポットがあるなら、もっともっと皆が利用して、楽しめる。ファミリークルージングも成り立つでしょうし、デイトクルージングや、友人同士や、いろんなパターンで、クルージングを楽しむ事ができる。

しかしながら、日本の海岸線は、ほとんどが言うならば業務用であり、漁港、本船の港、そういうものに占領され、海岸に桟橋設置するだけでも、いろんな制約があると聞きます。つまり、気軽に、どこかに立ち寄る箇所はあまりありません。漁港に遠慮がちに入るか、その漁港に立ち寄っても、
特に何も無く、陸上を走り回る事にもなる。

敢えて、そういう環境の中でもクルージングにいかれる方もおられるわけですが、でも、もっと広げて考えますと、一般的なクルージングのイメージとして、普通の方々が、気軽に行く、楽しい場所はそう多くは無いわけです。ですから、クルージングは流行らない。

考えてもみてください。家族を連れて、漁港に入る。場合によっては、潮が引いていたりしますと、岸壁に上がるだけでも大変です。おまけに、その漁港には何も無い。よって、タクシー拾って、どこかに行くとか?自転車で回る?そんな事で、家族がまた行きたくなるというのは、なかなか可能性としては低いのではないでしょうか? 楽にできるとしたら、別のマリーナに寄るぐらいでしょう。

やる人はやります。でも、それが一般的な遊びとしては流行らないと思います。

反論はあるかと思いますが、クルージング、クルージングと言っている間は、日本はヨットを遊べないのではないか?冒険家しか遊べないのではないか?もっと一般的な、気軽な遊びというものが中心にあって、いろんな人が海に遊びに来る。その中で、一部はもっと遠くへという人が居る。それが普通ではないでしょうか?その普通が日本はやりにくい。

それで、提案してきたのがデイセーリングであります。セーリング自体を楽しむという事であれば、小さなヨットも、大きなヨットも、シングルも、家族も、みんなが楽しめる。でも、どうやって?というのもあります。それをピクニックからセーリングの追求までを書いてきました。どこにも行かないセーリングというものを、普通に面白さを感じる事ができれば、我々は、どこかの立ち寄り場所に依存する必要が無くなります。

それと、もうひとつは、気軽なレースですね。いろんなタイプのレースがあって良いし、これは施設に頼るわけでも無く、我々次第。小さなヨットで、友人とニ艇で走るのも良い。サイクリングのようなもの。できるだけ、何かに頼らずに、楽しむ事ができれば、それにこした事はありません。レースは、もっと何か工夫して、面白さ、気軽さの演出が必要かもしれません。

何もデイセーラーである必要はありませんが、もっとセーリング重視の方向へ進んだ方が良いのではないか?という気がします。もちろん、クルージングも否定しませんが、レースしませんから、クルージングですという無意識的、反射的反応は、どうも考え直した方が良いような。

最初から、どこどこに行くという目的が無いと、気軽であります。何時までに着く必要とかは無いわけですから。そう思ったら、途端に、セーリング自体に目が向く。セーリングを楽しもう、その操船を楽しもうとなるかも? お弁当持って、ピクニックをする楽しさ、どこかにアンカーを打って、そこで海水浴。釣りもできる。ボートと違って、仮にエンジンの調子が悪くなっても、セールがあります。
まあ、ちゃんと整備しておけば、そういう事もありませんが。

どんな乗り方しようが、勝手な話ですが、もっともっとセーリングに目を向けてはどうでしょうか?
サイクリングのような、ジョギングのような、気軽なセーリングの楽しみというのがあって、その上で、どうするか?もっとセーリングを追求する人も居て、遠くにクルージングに行く人も居て、でも、大半は、気軽なセーリングを楽しんでいる状況というのは、可能性として、クルージングよりも大きくなるかな?

我々は発達した社会に居ますから、いろんな事をしてもらう事に慣れています。お金さえ出せば、どんなレストランにもいけますし、いろんな遊びも気軽に遊ぶ事ができます。それはもてなす側が、ビジネスとはいえ、そういう施設を作って、整えているからです。我々にとっては、それが当たり前です。でも、海に関しては、そういう事が非常に少ない。だから、どうやって遊んで良いのか、それが楽しいのか?疑問になります。

でも、ちょっと自主性を出して、自分の感覚に目を向けていきますと、陸上では味わえない感覚があります。自分の感覚を遊ぶというのは、また違う趣向で、面白いのではないでしょうか?

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