第五十話 センサー

人間のセンサーは、すごい能力があるらしく、コンピュターが発達した現代においても、最後は人間のセンサーで、超微妙な調整を行うという分野も少なくない。それ程、人間の感覚は優れたものなんだな〜と思います。

車の金型制作とかでも、光に当てると微妙なカーブが浮かび上がり、その微妙さは職人の手でしかできないとか。昔、光学機器メーカーに在籍していた事がありますが、レンズを磨く最終工程は、職人にしかできないとかいう話も聞いた事があります。

我々は、その職人芸とまではいかないものの、同じようにセンサーをもっているわけで、全てはそのセンサーが何を感じ取るかで、全てが始まるかと思います。そのセンサーに集中してみようという事ですが、その変化を感じ取るヨットについては、やはり、いろんなヨットがあり、レスポンスの良いヨットは、そういう遊びにはもってこいという事になります。

実は、フィーリングを主体に持ってきますと、ヨットはより性能を求められると思います。何ノットのスピードが出ているかだけでは無く、その時のフィーリングはどうか、という事も求めるようになります。だから、造る方は難しくなる。堅い船体、軽い船体、船型、バランス、艤装、全てが感じとして伝わってきます。解れば、解る程に、厳しく求められる。

のんびりセーリングももちろん楽しいわけですが、集中力を発揮したセーリングも面白い。高性能センサーを持って、高性能ヨットにあたりますと、これはもうどうなんでしょう?そういうフィーリングはどうなんでしょう?

我々は、外にどんな刺激があるのかな〜と探していますが、自分自身が持つセンサーにも関心をもっても良いのではないでしょうか?今、舵を持って走っている状態から、もっと何か刺激がこないかという事から、今、舵を持つ手にもっと神経を集中させて、センサーをより敏感にさせて感じられる何か?

考えてみれば、常に変化があるわけですから、外の刺激を求めても良いのですが、逆に今ある変化を感じ取れるように、自分のセンサーを磨きあげる遊び方があっても良いのでは、と思います。

ワイン通の方は、味の微妙な違いがわかり、プロは何年のどこどこ産とかも解るそうですが、それに相通じるものがありますね。ただ飲むだけでも楽しめますが、センサーが鍛えられれば、もっと違う楽しみ方も出てきます。それと同じように、セーリングにおいても、センサーに重点が置かれれば、ただ乗るだけでも楽しいですが、別の味わいが楽しめるようになるのではないかと思うのですが。

プロになるわけではありませんが、長い期間に渡って、ヨットに関わっていくわけですから、そういう乗り方ができると、面白さの幅も出来るかと思います。センサーを磨いていくと、いつもとはちょっと何か違うとか、ほんの少しの船底の汚れだったり、そういう事に気付く事もあります。それって、何か面白くないでしょうか?自分のセンサーが磨かれていくというのは、面白さそのものではないかと思います。良いヨットに乗って、んん? 何か感じが違うな〜とか。違いの解るヨット乗りになりたいな〜と思います。それには、頭を使わない事が必要になりますね。これが難しい。

という事で、こういうセーリングの仕方もあるという事です。どこに行くかは重要です。何ノットのスピードが出るかも重要です。スタビリティーも重要です。舵の軽さもバランスも重要です。でも、もっと重要なのは、これらを全部足し合わせて、何とも言えないような、シルクのような滑らかさを感じたら、実に気持ちが良い。

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