第三十一話 お気に入り

物には実用性というものがあります。そういう面で見ますと、例えば、時計。時計屋さんに行きますと、1,000円程度もあれば、数百万する時計もあります。高価だから速く進むわけでも無く、安いから遅いわけでもありません。時計を時間の計測機械という点で見るならば、実用性としては、どれでも、だいたい同じであります。

しかしながら、デザイン、質感、耐久性、いろんな面を見ますと違ってきます。その違いに何万も何十万も支払うというのは、やはり、人間の感性を刺激するからであり、しかも、それが非常に重要視されているという事でしょう。もちろん、気にしない方も大勢おられますが。 今、何時? これは実用性、実用性はみんなあります。

時計を誰も持たない時代なら、実用性さえあれば十分だったでしょう。でも、やがて、みんなが持つようになると、実用性+感性が認めたものという事に進んで行きます。

ヨットだって、セールさえあれば、どんなヨットでも実用性はあります。ヨットは時計のように普及しているわけではありませんが、でも、マリーナに行けば、たくさんのヨットがあり、それらを見ていきますと、目が慣れ、実用性プラス何かを求めたくなります。

それで、ヨットは遊びなんですから、実用性プラスアルファーの重要性は高い。セーリングできるのは当たり前ですから、どんなセーリングができるのか? これはちょっと難しい面がありますが、やはりデザインという見た目は重要なアピール度になってきます。

ヨットは乗って走るもの。そうなりますと、操作性とかも重要になりますが、何といっても、自分のお気に入りである事が重要で、いくら性能が良いとか言いましても、あまり気に入らないヨットでは楽しさが違いますね。気にったヨットであれば、多少の難があっても、やっぱりこれが良い、と難を無視したりする事もあります。或いは、このヨットは、こうです、ああですと難点を並べつつ、でも、ニコニコしている。お気に入りなんですね。遊びですから、気に入る事は非常に重要です。

それで、まずは、理屈はさておいて、自分が気に入るかかどうかという点で見て、実用性はその後と考えても良いかもしれません。そして、気に入った中から、データをみたり、価格をみたり、操作性を見たり。気に入る事が一番です。理屈抜きに、魅力を感じる何か?

多分、外洋艇を探している人が、デイセーラーやレーサーを見て気に入る事は無いと思います。また、逆もそうです。感性は、そういう所にシフトされている。そして、特別な理由が無く、何か良いヨットはないか、と探している人は、ジャンルはいろいろでしょうが、その時に気に入ったヨットが、その時点では正解のジャンルかもしれません。

考えてみましたら、時計には、腕時計、置時計、掛け時計等々いろいろあります。その違いは明確ですね。腕時計を探している人が、置時計で迷う事は無い。ヨットの場合も同じかとは思いますが、時計ほどの明確な違いが解らない。だから、時に、とんでもない選択の可能性も無いわけじゃ無い。しかし、自分の感性を信じても良いんじゃないかな〜と思います。

今、あるヨットに魅力を感じたとしたら、自分の感性がそこに合っている。そして、実用性や性能を見た時、他人はやめた方が良いと言う場合もあります。他人は一般論を言います。それはある面では正しい。それは無視すべきでも無い。でも、自分は個性であります。そして、ヨットは遊びであります。一般論は正しい。自分の感性も正しい。だから迷う。

迷った時、一般論に従う人も居れば、自分の感性に従う人も居る。どちらも正しいから始末に悪い。でも、遊びである事を考えるなら、自分の感性をより重視したい。好きであるという要素は、他のデータと同等か、それ以上に重要かと思います。

そして、そのヨットに乗り出したら、今度は実際に走る中において、好みを見つけていくという工夫も必要になります。そのヨットがどんな走りをするのか、すべてに満足する事はありませんので、このヨットのいろんな面を見て、良い面、悪い面をとにかく味わう。これは、ベースに気に入ったヨットであるという事が重要になると思いますね。

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