第二十話 空間

時間で見たら、空間でも見ます。2〜3時間のセーリングが成立するのは、半径5〜6マイルぐらいでしょうか。その範囲は通常のデイセーリングのフィールドになります。面積で言えば、366,000平方メートル。約11万坪。海岸線が半分あるなら、約5.5万坪。このフィールドを自由に、ただで使えます。狭いと言っても、かなりの広さありますね。しかも、陸地のように混雑は無い。

こんな広さの公園に行って、自由に使えると考えれば、かなり広いものです。海ですから、広い海から考えれば、狭いには違いないですが、でも考え方次第。このフィールドには、複雑な地形が半分陣取り、そこには島もあるかもしれない。半島が突き出しているかもしれない。漁師の網があったり、本船や漁船が通ったり、これらを邪魔物扱いしますと、面白さが無くなります。これらは、変化を与えてくれる。面白さを与えてくれると考えた方が良い。

もし、何にも無い広い海だけがあるとしたら、どっちの方角へ走ろうとも自由なのですが、全くの自由は案外面白く無いんです。そこに障害があるから、そこを避けねばならない。それが邪魔では無く、変化を与えてくれます。それが面白さでもあります。本船が来る。他のヨットが通る。漁師の網がある。暗礁もある。それらはみんな変化であり、我々に面白さを与えてくれる。障害はリスクですが、リスクをいかに避けて通るかが面白さのひとつにもなります。

こんな変化があるフィールドは、近場にある。島があれば、それが風を変化させます。波も変化させる。潮も変化させる。障害物こそが面白さを演出します。障害物競争だと思えば、面白さは増えてきます。真っ直ぐなトラック競技なら、スピードを競う以外には無い。しかし、障害物のおかげで、フィールドは遊園地のようになる。真っ直ぐ走れない。このままならぶつかる。ギリギリ上っても無理。ならば、タックしてという事になります。それが変化であります。ですから、スピード以外にもいろんな面白さが出てきます。

大海原も良いけど、近場の方が変化があって、デイセーリングには面白いフィールドとなります。その変化に加えて、風と波と潮が変化し、さらに変化の度合いを上げる。つまり、デイセーリングの遊びは、その現場の、日々異なる状況の観察と、その状況にいかに調和して走らせる事ができるかを味わい、遊ぶという事になります。

2〜3時間という短くもある時間、そして半径5〜6マイルというフィールド、そこに多くの変化を観察して、遊ぶというデイセーリングには、ヨット遊びの本質が凝縮しています。思えば、最も面白い、エキサイティングになる可能性を持つのではないでしょうか。それに、すぐに帰る事もできます。ですから、気楽です。

そこで、どんな乗り方をしていくかは、オーナー次第です。のんびり走ってみる。スピード重視で走ってみる。タック、ジャイブ、コース取りを考えてみる。どんな乗り方でも良いのですが、デイセーリングという時間とフィールドは、とってもエキサイティングなセーリングになる遊園地のような場所。そういう事は意識しておいた方が良いと思います。その遊園地で、今日はどうやって遊ぼうか?

そしてデイセーラーにも欠かせないのが、1日の時間とは他に、今後長年続く長期的な時間です。
これから10年、20年乗るとしたら、どうしていくか?デイセーリングでは、深く、深く入っていく事になります。遠くには行かないけれど、セーリングの本質は体に馴染む。味わえる。すると、もっと深い、精妙な、フィーリングを主体としたセーリングを味わえる。感性が鋭敏になって、わずかな変化さえも解るようになる。そういう面白さもあります。感じる事が面白さです。より多くを感じましょう。
それで何か良い事ある? 無いかもしれません。でも、感じる事こそが生きている事ではないでしょうか。

という事で、デイセーリングの時間とフィールドは、最も気軽でありながら、最も変化に富んだエキサイティングなセーリングを味わう事ができます。全てがこの時間と空間に、ギュっと凝縮されています。これをどう意識するかによって、感じ方も変わる。風景に変化が無い。確かに。でも、それ以外は変化だらけです。視点をどこに置くか次第です。

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