第六話 クローズというセーリング

風の方向にデッドゾーンという走れない角度があります。セーリングで最も面白い走り方かもしれません。何故、風上に向かって走るのか?何気ないクローズの走り方に、少し意図を加えます。

目標点をデッドゾーンの方向に設定します。そこに早く到達したい。でも、一直線では行けません。それじゃあ、仕方無いから、できるだけ上って、角度を稼ぎながら、近づいて、ジグザグコースを取ります。これがクローズですが、クローズを走る理由でもあります。デッドゾーンの中にある目標点に行きたい。これが理由になります。この理由があると、ただクローズを走る何気なく走るといのとは違ってきます。モチベーションが異なる。高いモチベーションが、面白さを掘り起こす。

目標点に何かを設定します。遠い島でも、ブイで何でも。無ければ、コンパスの角度でも良い。
仮に、0度の方向に目標点があるとします。風が10度から吹いてきているなら、左側からアプローチした方が、効率は良い事は明白です。風が350度の方角から吹いてきているなら、右側からアプローチします。もし、風が0度からなら、右も左も条件は同じ。どっちでも良い事になります。

それで、敢て、今吹いてきている風向と同じ角度に目標物があると設定します。風に向かって、右からでも、左からでも、条件は同じ。とりあえず、これでスタート。

仮に、風向は0度とし、左舷からアプローチするとします。40度で上れるとします。右舷から風を受けて、コンパスの針路は360度(0度)−40度で、320度で走る事になります。これで、しばらく走ってみます。セールを引き込んで、リボンがきれいに流れるように、まずはこれを心がけます。
これでうまく走れるようになったら、舵操作で、ほんのわずかづつ風上にきりあがってみましょう。
ジブセールについたリボンが、真横に流れていたのが、風上側のリボンが少し斜め上に流れるようになります。もうこれ以上、上る事はできません。ギリギリの本当のギリギリのコース。舵操作も難しい。繊細な操作が必要になります。しばらくは、このセーリングを楽しんでみましょう。繊細な舵取りを楽しんでみましょう。

セーリングは上り角度を稼げる方が、スピードは落ち、風に落とせばスピードは上がる。そういう理屈になっています。クローズで走る時、この角度をかせぐか、スピードを稼ぐか、オーナー判断という事になります。そして両方のちょうど良い比率がVMGと言われますが、まあ、ここではそんな事は置いといて、兎に角、舵操作でリボンを見ながら、ギリギリまで上ったり、落としたりしてみます。それで、リボンは斜め上にあがったり、真横に流れたりを、ちゃんと観察しておきます。舵は繊細に操作しなければなりません。大きく切ってはいけませんね。そういう繊細な部分を楽しんでみてください。

ところが、風向が変化します。ですから、コンパス針路で320度で走れば良いというわけにはいきません。それで、風速の変化に追随する舵操作が必要になりますから、それを楽しんでください。しかし、目標点はあくまで、最初に決めた0度の方向にある。

風向の変化は、風向風速計があれば、一目瞭然ですが、無ければ、マストトップのウィンデックスを見上げる。首が痛くなりますね。もうひとつ、セールを観察しても見分けることができます。

風向0度、針路は320度。そこで風向が355度、350度と変化してきたとします。風向がヨットの前側に回ってきた。これはヨットはコース変更していませんが、風が前側に変更してきたので、ヨットが風に向かってのぼったのと同じ結果になります。風向が変らないで、ヨットが320度から
325度、330度へと上ってきたのと同じ関係になります。風が動いたか、ヨットが動いたかの違いです。これは上りすぎ。風上側のリボンが斜め上に流れるようになって、もっと乱れてきます。セールはこれ以上引き込めません。それで、舵操作で、ヨットの角度を落とす。リボンがきれいに流れるように。そこが310度の針路になる。

逆に、風向が0度から5度、10度と変わります。すると、ヨットはもっと上れる事になります。上れるというのは、目標点に対して上れるです。320度から325度、330度と角度を稼ぐ事ができます。角度を稼げるかというのは、目標点に対してです。目標点は0度でした。

ここで、気付く事は、上記の風向の変化に対して、舵操作のみしかしていないという事です。セールは最初にクローズを走る時に引き込んだままです。何故なら、風速の変化に対して、同じ角度をとろうと舵操作をしたわけですから、風向はヨットに対して変ったけども、舵操作で変らないように調整しながら走ってきたわけです。ですから、セールにとっては、風向は変らないので、調整も不要という理屈です。

クローズの帆走は、目標点に対して、角度をより稼ぎたいという走り。ですから、より角度を稼ぐには、上りを良くするには、セールを一杯に引き込んでおきますから、これ以上、引き込めないのですから、後は、舵操作のみなのです。

この理屈を体感してみてください。しばらく、風向の変化に合わせて、舵取りを続けてクローズの走りを楽しんでください。良くセールを観察してください。舵の微妙な調整を感じてください。いかに繊細な操作が必要か。ちょっと油断しますと、上りすぎたり、落としすぎたり。結構難しかったりしますが、遊んで、慣れてください。この時点では、タックとか、考えずに、ひたすら、風向の変化に追随していく走りを、舵操作してみてください。

ただ走るというより、こういう何かテーマを持って走りますと、集中しやすくなりますし、面白くなると思います。そして、こういうセーリングに慣れますと、繊細な舵操作にもうまくなると思いますので、是非、楽しんで頂きたいと思います。風向が良く変わります。大きく変わる事もあります。追随していくのは、結構難しくなる事もありますね。

続きます。

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