第七十三話 大人気ないこだわり

もう大人なんだから、分別をわきまえて、大人らしく。とは言うものの、どこかにこだわりを持ってしまう。それが男なんですね。他人から見たら、実に下らないとか、実用的でなかったり、笑えたり、本当はこういう方が使い易いのにとか、いろいろあるんですが、でも、何か気に入ってしまう。
気に入ってしまうと、どうもこうも仕方無い。そんな事ありませんか?

本人が楽しければ良い。迷惑さえかけないのなら、自分がこだわる部分というのは、それが無いとどうも気持ち悪い。そんな大人気ない遊び心も、許してほしいものです。

色にこだわる、素材にこだわる、デザインにこだわる。何かそういうものがあった方が、面白いと思いませんか?何も、理屈で全てが片付くというのも、大人の分別かもしれませんが、面白味は無い。他人が何と言おうと良いんです。

ヨットというのは、ただ乗って遊ぶというのもあるんですが、ヨットそのものの美しさがあります。ヨットは美しい方が良い。と言ってもそれぞれの感じる美しさがあります。例えば、モダンなデザインなら、イタリア人のデザインは、やはり美しい。フランス製とか言いながら、結構イタリア人の手によるデザインというの多いものです。流麗なカーブを描く形状、たまりませんね。

反面、ちょっとクラシックなデザインも良い。あまりにもクラシック度が高いと、気持ち的にヘビーになりますが、ちょっとクラシックな雰囲気を持つヨットは、イタリアンデザインとは違って、また良い雰囲気をかもし出している。それでいて、性能が高く、そこそこ速いのが良い。もちろん、人それぞれです。

直線でも良いのですが、そこに緩やかなカーブを造っている。それが良いとか、美しさにもいろいろあります。いろいろで良いのですが、ヨットはやっぱり美しいのが良い。休みの時は、そんなヨットに乗って遊んでます。という大人気なさが、実に良い。

ある人は、ティラーをわざわざデザインして作ったり、チークデッキを張ったり、ちょっと昔ですが、バイオリニストのヨット、ティラーはもちろん木製で、ティラーの先が、バイオリンの先っちょの形にわざわざ造った人が居ました。そんな、何でもない、大人気ないこだわりが、実に良い。

ヨットは遊び、100%遊び、そこは自分のこだわりを自由に発揮して良い。その方が楽しいですから。大人気なかろうと、何だろうと、良いじゃないですか。

ある人はスピードにこだわる。船体の色にこだわる、船名にこだわる人も居ますね。船名は名前だけじゃなくて、デザインにこだわるんですね。わざわざ職人呼んで、船名をグラデーションつけて、スプレーで描いた人も居ました。

実は、こういうこだわりは、日本人には非常に少ないと思います。もっと遊んで良いんじゃないでしょうか?ヨットなんですから。遊びなんですから。遊びはこだわる部分。ヨット遊びそのものがこだわりでもあります。家族を乗せて、家族孝行と考えるのも良いんですが、せっかくですからね。実用性ばかりじゃつまらなくなります。

何人乗れるかなんてたいして重要じゃ無い。遊びは自分のこだわりを発揮するところ。自分の大人気なさをアピールしましょう。俺は、休みはこんなんで遊んでるんだぞと、言えるのがまた良い。。それが面白さでもあります。社会に出れば大人です。でも、遊ぶ時は子供。大人気ないは称賛の言葉です。

あるヨット、キャビンの天井が低い。もうちょっと高くならないのか?なんて聞いた事があります。実用性を考えれば、その方が良い。でも、デザイナー曰く、それじゃあ美しくないという返事でした。
一発で納得です。このヨットはこれで良いと納得です。

自分の好きなものには、誰でもこだわります。何でも良いわけじゃない。そういう見方を取り戻して良いんじゃないでしょうか?かっこ良く言えば、男の美学、遊びの美学。こんなもんは何の役にも立ちません。大人気ない。たかがヨット、あまり真剣に考えるもんじゃない。遊び心で考えます。楽しみたいんですから。

デイセーラーなんかこだわりです。まじめに考えたら、キャビンは小さいし、天井も立てなかったりします。でも、オーナーは遊び心が一杯で、船体の色、ラインの色、船底塗装の色、カバー類の色等にもこだわられます。船名なんか、何回も作り変えたこともあります。大人気ないこだわりの発揮ですね、実に良い。ああでも無い、こうでも無い。良いですね。ヨットは遊びですから。

そんなオーナーのこだわりに、できるだけ対応していくのが、我々業者の仕事です。気に入ったヨットで、気持ち良くセーリングする。遊びは気持ち良くですね。

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