第九十七話 三要素 

セーリングにおける最大の要素と言えば、セールエリアと排水量に、スタビリティーではないかと思います。もちろん、その他、水線長、幅、船型、船体の堅さも関係してきますが、とりあえず三大要素という事ではこれかなと思います。

恐らく、この三つでそのヨットのコンセプトがある程度決まってくるのでは無いでしょうか?排水量を軽くしたり、重くしたり、セールエリアを大きくしたり、少なくしたり、そしてそれぞれの重心をどこに持ってくるか?と言っても、絶対的なものは無いわけで、あれより重い、軽いという相対的なものになります。絶対的に速いという事も無く、あれより速いか遅いか。

ヨットのデータを見ますと、最近では、セールエリアの詳しいデータが無い。トータルセールエリアが記されるのみ。本来なら、I,J,P,Eが少なくともデータとして必要になります。そうしないと比較ができない。トータルセールエリアでは設置するセールによって違ってくるわけですから。比較のしようが無くなります。あるヨットは150%ジェノア、またあるヨットは130%等々となれば、セールエリアは全く違う。よって比較できない。比べるには、同じ条件でなければなりません。

船体の重心を知るデータはありませんが、少なくとも排水量とバラスト重量ぐらい無いと比較もできない。同じ排水量であっても、重心が高いヨットと低いヨットでは、セーリングが全く違ってくる。という事で、こういうデータを出さない造船所は、勝手ながら、セーリングをあまり重視していないと解釈しています。もちろん、それが駄目という事では無く、そういうヨットであると解釈しています。

セールプランのデータが無い、バラスト重量のデータが無い。そういうヨットは、そういうデータが必要で無いと判断しているのだろうと勝手に解釈します。つまり、セーリングよりもクルージングとしての、キャビンの広さ、使い勝手、装備、そういう方が重要と考えている。決して、それが悪いという意味ではありません。ただ、そういうヨットにセーリングがどうこうという期待はしない。そう勝手に解釈する次第です。こういうヨットには、メインファーラーが似合うし、電動ウィンチが似合う。ジェノアもやめてセルフタッキングにした方が良いのではないかと思います。冗談では無く。その方が簡単で、使いやすい。大きなコクピットテーブルに、そこにアイスボックスなんか設置しても良いかもしれません。クルージングというコンセプトにおいて、いかに使いやすくするか?ちょっと大き目のエンジンで、ペラはもちろん固定3翼。フォールディングにする意味は無い。つまり、良い悪いの問題では無く、視点の違い。

データを出すという事は、それを見てくださいという意思表示、出さないというのは、見ないでも良いという意志表示なんだと理解します。ですから、セーリングを見てくださいというヨットには必ず、セールプランの表示がありますし、バラスト重量の表示もある。昔ですが、カーボンを船体に使っていますという某ヨットがありました。どの程度、どこに使っているかは解りませんが、ちょっとでも何か良さそうな事があると強調したいのが人情です。逆にしないのは、必要ないからです。ですから、敢えて、どこかにデータが無いかとインターネット等を駆使して調べる必要は無いと判断しています。
これはあくまで私の勝手な解釈ですので、あしからず。

それで、セーリングを重視したい方は、IJPEを見ましょう。それでセールエリアを計算しましょう。そのセールエリアに対して重量がどれだけあるのかを計算します。これはTALK&TALKの最初の頃に計算式を書きました。(TALK1−89話)そして、バラスト重量を排水量で割って、バラスト比を出します。船体の重心データはありませんので、船体の大きさ、フリーボードの高さから想像するしかありませんが、これらの比較で、だいたい想像が付く。期待値と合うかどうかは別ですが、少なくともAとBを比較した場合は、比較としてどっちがどうだとは言えると思います。

もちろん、これだけで全てを把握する事はできませんが、大きな判断材料にはなると思います。しかしながら、実は、速い遅いだけがヨットの本質では無いと思っています。同じスピードで走っても、走る感じが違う。これは大きな要素です。多分、ハルの堅さや船型、バランス等から来ているかと思います。なかなか難しいですね。乗ってみなきゃ解らない。でも、ちょっとぐらいじゃ解らない。
是非、販売店の方の話をじっくり聞いてみてください。もちろん、販売店は良い事しか言いません。私もそのひとりです。みんな、自分が売っているヨットが最高だと思っていますから。それじゃ、何で判断するのか?同じようなデータなら、価格で判断するのも有りだと思いますが、そうたいして変わらないのであれば、50歩100歩。気に入ったデザインで判断するのも良い。

同じコンセプトで、同じような価格帯なら、そうは変わらないと判断して良いのではないかとい思います。要は好みです。どんな好みなのか?自分の好みは何か?後は御縁という事で。自分に縁があるものが自分のところに来ると解釈します。自分のところに来たヨットは、縁があったからです。
その縁は大切にしましょう。そのヨットの完璧さがどこにあるのかを見出しましょう。それが今必要な事なんだろうと思います。

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