第八十三話 新年 

新年、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。2010年、皆様の御健康と御多幸をお祈り申し上げます。今年もさらに良いセーリングができますよう、願っております。

さて、今年の目標はデイセーラーのさらなる躍進ですが、ひとりでも多くの方が、セーリングに面白さを感じて、デイセーリングを気軽に楽しんで頂けるようにと願っております。こう言いますと。キャビンを否定しているように聞こえるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。キャビンを楽しんでおられる方はそれで良いし、どうも、いまいちキャビンでは遊びきれないという方々へのセーリングへの転換を促しているだけであります。

そこで、ヨットについての考え方について、書いてみたいと思います。使い方がどうであれ、ヨットには良いヨットと便利なヨットという考え方のアプローチがあると思います。良いヨットと便利なヨットでは、どうもニュアンスが異なる。一般的に装備類は便利さが前面に出てきます。お湯が出れば便利、電子レンジは便利、計器類も便利、テレビもDVDも便利、ジブファーラーも便利、メインファーラーも便利、電動ウィンチも便利であります。便利は我々を楽にしてくれます。オートパイロットさえあれば、ひとりでクルージングも可能になったりします。ドジャーがあって、ビミニトップがあって、エアコンもある。そんなヨットは便利なヨットであります。便利さは目に見えて、その効果が解ります。ですから、便利にしようと頭が働きます。

新しくヨットを考える時、この便利さが頭に浮かびます。便利さを特に意識していなくても、自然に便利を追い求めてしまう傾向にあります。それは不便さを考えるからその不便の解消法を考える。こんな時、あんな時とありとあらゆる場面を想像しながら、不便を克服し、便利を享受したくなります。便利なヨットは、どんな場面でも使い易くなる。これが一般的な考え方ではないかと思います。

さて、もうひとつ、良いヨットというのがあります。これは便利なヨットとは違います。良いヨットとは何か?そのヨットが持つコンセプトにおける性能を平均レベル以上に発揮できるヨット、そして、その性能において、オーナーに安心感や良い気分を味あわせてくれるヨット、オーナーの味方になって、オーナーを助けてくれるヨット、そういうヨットは良いヨットかと思います。これらは、便利かどうかの次元では無く、そのヨットの性質に関わる事です。

つまり、便利は人間を物理的に助ける事であり、人は楽になります。一方、良いというのは、人間の心理に迫るものではないかと思います。通常であれば、便利で十分なのかと思います。しかし、一旦オーナーが、もっとを求め、例えば、もっとセーリングを、もっと遠くへの旅をとか、そういう事を求めた時、初めて、便利さでは無く、良いという事が求められる。

セーリングでもクルージングでも、表面的な部分で楽しむ分には、便利な方が良い。質を問う事はそうは無い。でも、いかにセーリングをしようかとか、いかにクルージングをしようかとか、そういうもう少し突っ込んだ状態を求める時、そこは質の割合が増えてくる。便利だけでは、そこに踏み入って、得られるものが違ってきます。

それは、どこをセーリングするか、どこまで行くかという物理的な面もあるでしょうが、オーナーの意識が変化して、より深さを求めるようになった時、その深さが解る時、それに対応して質が見えてくる。そういう時、良いヨットというのが見えてくる。

人は最初は便利を求め、それが深まると質を求めるようになります。その便利艤装にさえ質を求めるようになる。天気が良く、軽風で、波も無く、そんな時ならヨットは何でも良いかもしれない。しかし、こんな時でさえ、もっと深くを求めるならば、質を求める事になる。まして、強風や波が高い時などはなおさらであります。

便利さも、質も人間におおいに寄与します。ただ、便利を求めているのか、質を求めているのか、そのあたりは少し意識しても良いような気がします。例えば、車にしても、どんな車だって、高速道路で100Kmで走行する事はできます。しかし、車によっては、その質は全く違ってきます。ですから、人はより良い質を求めてきます。それは車社会が成熟してきている証拠だと思います。

ヨット界は、まだまだ成熟期には入っていないと思います。導入期が終わった頃でしょうか?これから成熟期に入っていくのではないかと思います。どんなヨットでも、便利艤装を設置さえすれば便利ヨットになります。それはもう解った。これからの成熟期には、どんなヨットがどんな質を持っているか?そういう事を意識していく時代になるのではなかろうか?つまりは、大きい小さい、どんな装備を持っているかの他に、どんな質を持ち、どんな走りになり、どんなフィーリングを得られるか?

クルージングにおいても同様で、いくらエンジンを使うにしても、一旦時化だしたら、それまでの走り方とは全くちがってくる。そういう時にどんな走りをするのか、それによってどんな感じを得るのか?これらは、ひとつ上のレベルへのステップアップを意味します。

それで、これからの成熟期、便利から質へ、それが問われはじめるようになるのかな?多分、一部の方々は間違いなく、そういう方向に進まれるでしょう。彼らは、リード役です。より上を求めて、日本にそういうヨットを導入していく役目になる。質を求めたからと言って、便利が無くなるわけでは無い。便利は後からでも追加できます。質はそのものを変えないといけません。ヨットなら、船体を変える事になります。

これは人が何かを求めていく、自然の成り行きかと思います。ほしい時代があり、手に入れたら、もっと大きな物とかに姿を変え、次にはもっと良いものという方向に向かう。2010年、この成熟期の始まりかな?いやいや、もう既に始まってますね。そういう方は予算さえあれば何でも手に入れられますが、そうもいきませんから、大きなヨットから小さな質の良いヨットに変える。そういう動きがもう始まっています。

GOOD SAILING 、GOOD CRUISIG and GOOD FEELING in 2010

どこに質を求めていくか?セーリング、キャビン、クルージング、はたまた別の何か?人が便利さから質を求め始めた時、そこに初めて、面白さが生まれてくる。これまでは使うという事、これからは、味わうという事。その違いがある。使うは便利、味わうは質なのであります。

さらに言うと、ヨットがどんどん質の向上がなされたとしたら、その先は、その質のまた質が問われる。質を上下に分けるのでは無く、横に並べて、自分の好きな質はどれか?と問うようになるんでしょうね。成熟期の最後の方でしょうかね。まあ、それはまだまだ先の話。

でも、質が良いって、何かわくわくしてきます。便利だからわくわくはしませんが。求めた部分の質が良いと、自分のフィーリングに影響を与えます。全部の質が良いにこした事は無いのでしょうが、そうも行かないなら、自分が求める部分においてだけでも質を向上させたい。そうなりますと、求めない他の部分において、多少の便利さの減少さえも、気にならなくなります。それはわくわく感のパワーがそうさせるんでしょうね。それを受け入れられた時、面白さが始まる。質は人の心にストレートに響いていきます。そこが便利とは違うところでしょうね。

という事は、我々の生活を便利にする方法と、豊かにする方法は違うという事ではないでしょうか?便利になったが、心は貧しいとか言う言葉を聞きますが、それは方法が違うからではないか?
便利になったら、今度は豊かにしよう。質を問いましょう。それが豊かに生きる方法かもしれません。何も、物の質だけでは無く、ありとあらゆる質を考えてみるのも良いかもしれません。どんな質を求めるのか?便利は誰でも考えますが、質も考えてみる。

ヨットは仕事をする道具では無いだけに、フィーリングを遊ぶ道具ではないかと思います。より深いフィーリングは質によって左右される事になります。ヨットを移動目的として扱う以外、それは質を問い、フィーリングを問う道具になるのではないかと思います。という事は、どんな乗り方をするか、どんなフィーリングを求めるのか?そういう事になっていくのかな〜?今年は、より多くのグッドフィーリングに出会えると良いですね。結局、全てはこの為です。

もうひとつ、便利は人を楽にするので良い事なのですが、時には、便利が面白さを奪う事もあると思います。便利だから、つい使ってしまいます。でも、もし、それが無いと自分の手と体を使って操作する事になります。その行為が、面白さを生み出すという事もあると思います。ヨットは何でもオートマチックで良いわけでは無く、操船する楽しみ、その行為から受け取るフィーリングを楽しむという事もあります。機械で同じ走りができるにしても、フィーリングとしては違ってくる。セーリングはそのフィーリングを大事にしたいと考えます。

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