第七十二話 基本

何でも基本が大事とか言われます。では、ヨットの基本とは何でしょう?ロープワーク、エンジン、アンカーの打ち方、セーリング、いろいろあるとは思います。それでスクールに通って、それらを学ぶ事も大事です。でも、最も大事な事は、外から与えられる知識とか技術では無く、もちろん、それらを学ぶ必要はありますが、自分で考えるという習慣を持つ事ではないかと思います。教えられた事をそのままで受け入れるという姿勢は進化を期待できない。何故そうした方が良いのかを考える癖を持つ事は、自分なりに消化していく事、それは進化を促す。

自分で考える習慣を持つと、いろんな場面で応用が効くようになる。相手は物ですから、ヨットという特殊な物ではあっても、物は物。常識的アプローチで十分に考えられる事も多い。メインセールを上げる時にいつもより重いと感じたら、何かがある。それをウィンチで無理矢理引き上げてはトラブルの元。そんな事は誰でも分かるが、そうやる人も中には居る。いろんな操作もセーリングの理屈はあるものの、ある程度セーリングとして知識を得れば、自分で考える事を伴う事によって、いろんな場面でおおいに応用が効くようになる。

大事な事は自分で考える。これではないかと思います。いかに速く走るかは難しい。でも、走るという基本においては、常識的アプローチがおおいに物を言う。帆走に慣れたら、頭を使って、常識的思考を巡らす。その常識に見合う操作をするにはどうしたら良いかと考える。分かって、うまくいくと面白くなる。それが基本にあると無いとでは大違いなのではないでしょうか?

人に聞くのも良い。本で知識を得るのも良い。でも、ある程度進んだら、まずは自分で考える。セーリングだけではありません。メインテナンスにしても、解らないとはなっから拒否せずに、まずは自分で考えてみる事は、長いこれからのヨットライフに、おおいに影響を与える。どんな影響か?
それは理解するという事です。理解すると、いろんな対応の仕方にも違いが出てくるし、こうではないかという想像もできるし、予想さえできるようになる。

という事で、基本は様々な知識とその練習が必要ですが、それらに加えて、自分で考える事を加えたいと思います。

それに理解が深まると、いろんな箇所に自然に気付くようにもなる。知らない人が見るのと、知っている人、特に理解している人は目の付け所も違います。ヨットに対する目の付け所が違う。だんだん慣れていきますと、ひと目見て、良いヨットかどうかにも気付くようになるかもしれません。

それに、何てったって、自分のヨットライフが楽しくなります。知る事は喜びなりと、誰かが言ってましたが、知るだけでは不十分で、この場合の意味は考えて理解するだろうと思います。知的ゲームがそこにある。

セーリングの基本は真っ直ぐ走る事、その時の風に対するセールの角度、そしてブームの上げ下げ、ジェノアトラックのリードブロックの前後、ドラフトの深さと位置、これらの組み合わせはいろいろあるし、おまけに波の状況によっても異なる。こんなのは、数多くの経験からしか解らない。それも経験を通して、自分で考えるしか理解できない。それともうひとつ、考える根拠として、観察する事。目で見て観察、感じて観察。という事で、観察して、考える。これらの事があってこそ、面白さが出てくるのではないかと思います。

考えても解らない事は、どんどん聞いて、なる程、という理解を。そうしますと、ヨット全体の理解が深まる。車なんかですと、アクセル踏めばスピードは出るし、そこらの構造を知らなくても、楽しめるが、ヨットはそういうところが違いますね。理解すればする程に深くなり、面白さの種類が違ってくると思います。ヨットも、そんなに詳しい事知らなくても走る事を楽しむ事はできる。でも、知れば、面白さの質が違っていくと思います。

何故マストを曲げるのか?そういう知識はレースだからでは無く、より効率良くになるし、効率が良いと速くなるし、また楽にセーリングする事にもなる。だから、レース以外でもやった方が面白い。

次へ       目次へ