第四十ニ話 得意分野  

人だ誰にでも得意分野というのがあります。好きな事ですね。傍から見ていましたら、大変そうに見える事が、当の本人にとっては全くそんな事は無く、むしろ面白がっていたりします。それがその人の得意分野であり、価値観でもあります。

テルテールを睨みながら、微妙な舵取りに集中し続ける事、そこに緊張感の面白さを感じる人も居れば、そんなのまっぴらだと、もっとゆったり走りたいという方もおられます。どっちでも良いわけで、こうしなければならない事は何も無い。要は、自分の得意分野を遂行する事。この事によって、その人には、面白さがもたらされる。

ゲームは楽しい、面白いものでなければなりません。世間では遊びとして捉えられているものであっても、面白いゲームをしないと、遊んでいるとは言えない。本人にとってはストレスが溜まるばかりです。では自分にとって、どんなゲームが得意なのか?何が面白いのか?ヨットと言っても、いろんな使い方があるわけですから、いち早く自分のゲームを見出す事が必要になります。それは他人と同じやり方で良いとは限りません。もちろん、全ての方々がセーリング自体に面白さを見出すかどうかも解りません。

今できる事の中で、できる事をいろいろやってみる事が必要になります。宴会をして楽しかったら、またすれば良い。何度でもやって、それでもいつも面白いならそれで良い。でも、宴会はどこでも出来るという面もあります。ヨットだから雰囲気は違う。しかし、それも2度、3度やれば、それほど違いは見出せなくなるのではないでしょうか?何も宴会を否定はしていません。それが主になるかどうかの問題です。

クルージングとして、セーリングをする。それも良い。仲間や家族を誘ってのクルージングです。それも何度もやってみれば良い。それがどう変化していくのかです。レースもそうです。何でも挑戦してみて、面白かったら、それをまたやれば良いと思います。重要な事は、それが大変な事かどうかでは無く、自分が何を感じているかではないでしょうか?わくわくするような感じが湧き出てくるかどうかです。

シングルハンドをしようと思うと、一般的には大変さがあります。でも、それも挑戦してみる。強風時に操作する事の大変さを味わてみるのも良い。そこに少しでも面白さが感じられるかどうか、自分の心を監視してみるのも悪くない。恐怖感もあったかもしれません。でも、同時に、どこかにわくわくした感じもあるかもしれません。そういう場合、恐怖感さえ削減できれば、そのわくわくした気持ちが大きくなっていくはずです。

他人は、大変だよとか言う事があります。しかし、重要な事は大変かどうかでは無く、自分が面白いかどうかです。面白いと感じたなら、それをもっとやり易くする方法を考えます。きっと、この考える事さえ面白いと感じるはずです。どうやったら、このヨットをシングルで乗りまわせるようになるか?それもゲームのひとつになります。オートパイロットを使う? ティラーをショックコードで固定したら?足の間に挟んで?強風時のジェノアシートウィンチをどう操作するか?タックを、ジャイブをどうやってするか?何でもそうですが、大変さもありますが、同時に面白さを少しでも感じていないと、長く続ける事はできません。

全ての原動力は面白さにあります。得意分野をやっている時、それがうまいかどうかでは無く、面白いと感じているかどうか?面白さにもいろいろあって、緊張と緩和を面白いと感じたり、スリルがあって良いとか、走る波の音が良いとか、エンジン音無しで走る感じが良いとか、或いは、オートパイロット任せでも、のんびり癒されるセーリングが良いとか、いろいろあるものです。

ただ、共通して言える事は、変化を面白がるというものだと思います。いつも同じ風では面白みに欠ける。いつも、同じメンバーで同じような宴会では飽きもくる、いつも同じ場所へのクルージングも同様でしょう。変化が重要なのだろうと思います。目的地のあるクルージングも宴会も、コントロールしているのは自分であります。自分でコントロールできる限り、変化は自分で生み出さねばならない。誘う相手を変える、料理を変える、行き先を変えるなどです。でも、これには限界もある。

自然相手の場合は、予想がつきません。ある程度天気予報で知る事はできますが、それでも、実際は予想外だったりもします。でも、その変化があるからこそ人を飽きさせる事が無い。セーリングを好きで無い方に無理強いはできませんが、でも、トライする価値は十分にある。やってみる事、いろんな状況で、それもセーリングに集中してみたり、理屈を学んでみたりして。それでも、面白さを感じられないのなら、それ以上は勧めませんが。

でも、全ての人に、最高のセーリングを一度は味わって頂きたい。元々、ヨットを始めようと思ったきっかけは何か?人に言われたからできるものでも無いし、例え誘われたにしても、最後は自らの決断によるものです。そして、ヨットをしようと思った人は、たいていは宴会が楽しそうでというより、セーリングの気分にあこがれたのではないかと思います。そうならば、自分の中のどこかに、セーリングを面白がる気持ちが必ずあるはずだと思います。その感じを大事にして、いかに操作をしてその面白さを増幅していくか?

年々年を取り、体力も衰える事には逆らう事はできません。それで、サイズを落とすという方法もありますし、或いは、電動等を使う、便利な艤装品を採用する。いくつかの方法があります。それらを考慮して、自分の面白さをキープする事もできます。それに経験を積めば、それなりに無駄な動きも無くなって、より楽に同じ事ができるようにもなる。

是非、自分の最も面白いと感じる部分を大切にして、そこを求めて頂きたいと思います。求めるにあたっての工夫も楽しんで頂きたいと思います。勝負するは、自分の得意分野でやるのが一番良いわけですから、その得意分野、面白いと感じる部分、これさえキープすれば、ずっと長く遊ぶ事ができる。最も面白いと感じる部分、最初はその感じを、自分の中の感じを観察する事が必要かもしれません。時に人は、みんなと同じである事で安心してしまいますが、本当は安心がほしいのでは無く、面白さがほしいはずです。自分独自の得意分野を見つけさえすれば、それが何であろうとも、最も楽しめるのではないかと思います。

そして、セーリングに面白さを感じたら、是非、セーリング自体を求めて頂きたいと思います。そこを第一に考えて頂きたい。そしてどういうセーリングなのかを考えて頂きたい。最初は恐怖を感じたとしても、その恐怖さえ無くなれば、面白さが増える。恐怖であっても感じている事には違いない。恐ろしいのは、何も感じない事です。恐怖も無いかわりに、楽しさもあまり無い。惰性で時間ばかりが過ぎる事です。何であれ、何かを感じる事が重要です。それを良いと悪いに分けてしまいますが、それを分けずに、感じていた事をよくよく観察してみると、そこから何か新しいものふが生まれるのではないかと思います。

初めてヨットに乗った時、サイドデッキが浸かるぐらいヒールしたのを見て、恐怖を感じました。しかし、次に思った事は、ヨットというのは、こんなに傾斜しても大丈夫なんだという事です。そこから面白さが始まる。

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