第九十八話 国民性

ヨットについて、長い間いろいろ見てきましたが、結論的には、ヨットをやるというのは、旅をするか、或いは、スポーツとして捉えるかのどちらかが主軸になるのではないかと思います。それ以外を軸とするのは、例えば、ヨットに泊まる別荘的使い方等、そういうのは日本人としては、なかなかできそうもないように思えます。

日本人は何か目的を持って、それを求めていくのは得意なのではないでしょうか?でも、一方では、何もしないというのに耐えられないのではないでしょうか?欧米人が長期休暇があって、だからこそ、ビーチやプールサイドでのんびり読書なんかできると考えていましたが、そうでは無くて、休暇の長さの問題では無く、国民性なのではないかと思います。また、ある話では、昔、窓際族というのがあって、日本人はそれに耐えられないが、あるフランス人は、そんな天国のような待遇があるのか?と驚いたそうです。彼らには、窓際族は最高なのです。ですから、長期休暇をのんびり過ごせる。それが欧米人かと思います。一方、日本人にとって長期休暇は何をして良いか解らない。

まあ、時代も少しづつ変わりつつはあります。しかし、この国民性はそう簡単には変わらない。別荘的使い方は欧米人の得意技かもしれません。ですから、ヨットを見れば、そういう作りにどんどん変わってきています。それをそのまま鵜呑みにして、同じスタイルで使おうとしても、無理が出てくる。欧米のヨットでも、実際動いているという割合は少ないようです。でも、彼らのスタイルからすれば、別荘的に、動かさなくても遊べる国民性からすれば、それでも楽しめるのでしょう。でも、日本人はそうはいかない。

ですから、日本人が同じように別荘的使い方を考えるのは無理があるように思えます。たまになら良いですが、それが主軸になりますと、滅多にマリーナには行けなくなるのではないかと思います。でも、主たる目的を一旦持ちますと、日本人は途端に力を発揮する。長い旅をされる方は少ないですが、でも、一旦、それを決心しますと、多分、もっと多くの方々が、旅を楽しむ事ができるのではないか? ただ、旅の目的は何か? 何を、具体的に味わいたいのか?

また、旅では無い場合は、セーリングはスポーツとして、いかにセーリングを遊ぶか? これらを、日本スタイルで昇華していく必要があります。日本人は欧米文化をそのままに従うのでは無く、日本人スタイルで昇華して、自分スタイル、独特のスタイルに造り変える事によって、いろんな文化を吸収してきました。野球はベースボールとは違うとか言われましたが、同じではいけなかったのかもしれません。文化が根付くというのは、概要は同じでも、中身は少し違う。そういう日本人スタイルが定着していかないと、本当に根付いたとは言えないのかもしれません。

それには、時間が必要になります。時間の経過とともに、徐々に、スタイルの探究が進み、それが定着していく。日本人スタイルのヨットライフとは?これが長い年月のテーマという事になると思います。

もちろん、日本人のスタイルもいろいろ変わっていくとは思いますが、今、最も進める方向は、デイセーリングではないかと思っています。セーリングのスポーツ化、そのレベルがどうであれ、セーリング自体を楽しもうという姿勢を主軸に、そのバリエーションを楽しむ。これが定着していった時、バリエーションの比重も大きくなっていく。例えば、別荘的使い方は、このデイセーリングの後からくっついてくるのではないかと思います。ロングの旅もそうです。まだまだヨットが根付かない時に、レースだ、ロングの旅だ、といろいろ見せられても、良いなとは思えど、なかなかそこまでは広がらないのではないか?それより、近場のセーリングが、手軽であるし、スポーツ的にもできるし、これが面白いという事で流行って、定着する事によって、そこから他へも移行する人達が増えて行く。レースにしても、旅にしても、既に文化として、もっとヨットが馴染んできてからなら、もっと流行るのではないかと思います。

欧米にしたって、別荘的な使い方だろうが、ヨットという物に馴染んでしまえば、その中から、レースに向かう人達、世界を旅する人達が出てくる。今の日本には、主軸を何にするか、それが重要で、何をして馴染んでいくのかが問題かと思います。レースもやってますし、旅もやってます。別荘的使い方をしている人も居るでしょう。でも、いまいち、広がっていかない。ならば、ここで、デイセーリングを主軸とした使い方、これが今の日本には一番しっくり来るのではないかと思います。

ただ、一機に、ぱっと変わる事はありませんので、徐々に、徐々に変わり、それがある一定数に達しますと、ドンと広がる。今は、まだ模索段階かと思います。何が、我々日本人スタイルの軸にするのに、最も相応しいのか?それぞれが、それぞれのやり方で模索をしていきながら、やがては、どこかに集まる。しかも、日本人スタイルとして昇華していく形で。軸さえできれば、後はほっといても、どんどんバリエーションは広がっていくのではないかと思います。その軸として、デイセーリングを提案しております。

モーターボートにしても、状況は同じで、ただ、釣り目的のボートは良く使われています。しかし、それ以外の場合、非常に動く率は少ないようです。ボートですから、足は速い。沿岸で行けば、ちょっと遠出なんかも簡単に行けます。それでも稼働率は少ない。ヨットに比べて、計算しやすく、長期である必要もないにも拘わらず。欧米人のパーティなんか、彼らは気軽なパーティとしてしょっちゅうやってますが、日本人は彼らほど気軽では無い。かと言って、走ってるだけではすぐに飽きもする。何かが必要なのだろうと思います。釣りという目的があれば、どんどんやれます。遠くにだって行きます。でも、その目的が曖昧だから、なかなか動けない。

ですから、ボートは兎も角、セーリングそのものを目的としてはどうか?それはセーリングのスポーツ化という事になると思います。ハイレベルなセーリングから、初心者レベルでも、それぞれの段階でスポーツ化したセーリングを楽しむ事ができます。こんな気軽な乗り方は無いし、目的も今の自分のレベルを楽しみ、そして、徐々にうまくなっていこうとする目的意識さえあれば、誰でも楽しむ事ができる。他のスポーツや趣味と同じ事であります。これが定着する事によって、全ての突破口が開かれるのではないかと思います。いわば、今やっている方々、これからやろうとする方々は、パイオニアですね。日本にヨット文化が定着するパイオニアであります。自分が面白いと、楽しんでいく事が、ヨット文化におおいに貢献している事になる。10年後、20年後、そういう時間を経て、ヨットは日本において日本文化として昇華され、日本スタイルが出来上がる。まだまだ、これからであります。

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