第五十二話 女の力、男の世界

福岡はかつては西鉄ライオンズの本拠地。現西部ライオンズの前の前の前ぐらいでしょうか。スタンドは平和台球場でした。閑散としたスタンドに、酔っ払ったおっさんがだみ声でやじを飛ばす。時には、野次と共に酒ビンが飛んだりもしたもんです。もちろん、女性なんかほとんど居ない。男だけの世界でした。それに比べ、今のスタンドはきれいで、とにかく女性が多い。酔っ払ったおっさんなんか居ません。黄色い声援が飛び交い、その女性達についてくるのが男達。昔とは全く違う様相です。

スターバックスに行きますと、これまた女性が多い。近くにサンマルクというレストランがありますが、これまた女性、何処行っても、人が多いところは女性ばかり。そこに野郎どもがくっついていく。女の力はすごいもんです。男はおんなの後ろからついてくる。

でも、昔の酔っ払ったおっさんの野次は、なかなかマニアック。野球に詳しく、単なる罵声とは違った。インコースを2球続けて、今度はアウトコースに云々。監督の采配が云々、まるで自分が監督になったかのようです。そこに三球目もインコースに投げたピッチャーは打たれ....。おっさんはそこに野次る。おっさんはただの酔っ払いでは無く、野球通なのです。観客も詳しいだけに、野次り方も違うのです。それが男の遊び場だったわけです。何も、無闇に騒いでいるわけではありませんでした。騒いでいるのは今の方でしょう。

女性が集まるところに男も集まり、それが経済にも影響を与える。あるヨット教室のインストラクター、ひとりでも女性が居ると、みんな野郎どもも長続きするが、男ばかりだと、長続きしないそうだ。

世界は男がリードしている思っていたが、そうでは無いらしい。男は女の手の上を転がされているようです。経済を牽引するのは殆どが男です。でも、外で偉そうにしていても、家に帰れば、奥さんに頭が上がらない。第一、男は一体何の為に働いているのか?かっこいい車を買って、女性を乗せる。家を買えば、奥さんの夢が叶う。最高のイタリア製のスーツを着こなしても、やっぱり陰には女のにおいが?

世界はそんなもの。それで、平和なのであります。今や、様々な所に女が居ます。かつてはいなかった格闘技の世界にも、観客を見渡せば女が多い。そういう時代なのです。

そこで、本題はこれからです。ひとつ小さな革命を起こしましょう。男の世界の創造です。ヨットに奥さんは来ない。家族も来ない。結構です。女が少ないから人が集まらない。結構でしょう。ならば、男の世界を作って、ダンディーに遊びましょう。海は男の世界としましょう。
セーリングを極める。そういう事に女はあまり興味が無い。ですから、男の世界です。繊細に、大胆に、セーリングを遊ぶ。ワイルドにせめましょう。どんどんマニアックな話をしよう。

ヨットの世界には、女性も大歓迎です。でも、セーリングの世界は、男達による男達の世界がある。セーリングを始めたら、もう男の世界にどっぷり。野生の感を養い、野性の血をたぎらせ、ワイルドな野生になる。そこには、女が近づけない男の世界です。マリーナには、ちゃらちゃらしたお店は要らない。バーがあれば良い。ハードボイルドにウィスキーを飲み、ぶっとい葉巻を吸って、昔のアメリカ西部劇のような、馬を外につないで、否、ヨットをつないで、バーボンをひっかける。ここでは、みんなが、ワイルドな男になります。マリーナは男達の社交場にしてしまいます。

でも、そんな世界を女性が好む。ダンディーでかっこいい。男の世界は女を魅了する。甲子園を見てください。サッカーもしかり。おんなが入れない男むんむんの世界は、異国の世界のようなもの、エキゾチックなのではないでしょうか?そうなると女性が寄ってくる?え〜、やっぱりそこか?いえいえ、ヨットには招待しても、セーリングはやっぱり男の世界なのです。女性を呼ぼうなんていう魂胆が魅力を無くし、これは男の世界だ、おんなは入れぬと思った途端に魅力を発揮する。どうせ、女性は来ないんですから、それなら、いっそのこと、セーリングワールドを、ワイルドな男の世界にしてしまいましょう?女が何だ、家族が何だ。断っておきますが、私の家庭には何の問題もありません。念の為。はなっから、家族とファミリーセーリングなんか考えない。

でも、そう思った途端。セーリングの魅力が見えてくる。あの微妙なバランスは何とも言えぬ。ザバッっとかかった飛沫に野生を見る。強風のスリルに冷や冷やしながらも、アドレナリンがわいてくる。そうか、俺は男だったんだ!男を取り戻すにはセーリングを極める事。1日にたった2、3時間、男になってくる。

考えてみれば、そういう男の世界というのは無くなってしまった。プロレスもボクシングも競馬も、みんなおんながいる。それらは昔はみんな男の世界だった。男が弱くなったとか言われ、それも認めざるを得ません。亭主関白なんて有り得ない。いつも、男は女の機嫌をとり、顔色伺いながら生きている。でも、これからのヨットハーバーは違いますね。ここは男だけのワイルドな世界です。体をシェイプアップして、メタボなんか吹き飛ばして、野生の男になりましょう。おんなは紫外線に弱い、きっと紫外線で溶けてしまうに違いない。ならば、マリーナは男の天国になる。そうだ、最近、腹の回りが膨らんできました。いけませんね。これから私もシェイプアップしなければ。ヨットの世界は男の世界と割り切ってしまいましょう。ワイルドですから、よたよたと大きな腹を抱えながら歩いていたのでは、かっこ悪い。マリーナは男が最も輝く場所なのです。最もかっこいい場なのですから。

そうなると、そうです。女性が興味を示しますよね。女性がマリーナに来ないのは、そこに男のワイルドさが無いから?男がワイルドになると、魅力的になる?考えても見てください。大きな、きれいなヨットに女性を招待する。男はみんな親切で、やさしい。確かに、居心地は良いかもしれませんが、それは男が魅力的なのでは無く、ヨットが魅力的なのです。でも、ヨットの魅力は長続きしない。表面的だから。そのヨットの見えない魅力を引き出すのが男です。そんな男は魅力的になる?そんな男の世界?戯言です。でも、半分ぐらいは本気です。

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