第四十九話 カジュアルセーリング

いろんな事を長々と書いてきましたが、最も強調したいのは、これです。ヨットにもいろいろあるでしょう。太平洋を横断するのはすごい事です。日本一周だってすごい。遠くへ、遠くへ、遥か遠くへ旅をするのもすごい事です。大時化だって遭うでしょう。大変な事を乗り越えていく人達はたいしたもんであります。

でも、最も多くの人達に持ってもらいたい事は、カジュアルセーリングであります。全てはここにつきます。どんなヨットでも良い、自分の気に入ったヨットで、気楽にセーリングに出るという気持ち。それが最も大切ではないかと思います。何も、たいそうな事をしなくても良い。遠くに行かないでも良い、湾内でも良い。とにかく、どんなであろうが、ちょいとそこまで、ふらりとセーリングをしてくる。そんな気軽さがほしい。

ヨットは、どれが良い、これが良い、速い、いろいろあるんですが、やっぱり気持ちが最優先されます。そんな気軽さを持つ事ができたら、ヨットライフは非常に楽しくなると思います。身近になる。セーリングを自分の隣におけます。

昔は海外に行くなんて事は大変な事。それなりに覚悟が要りました。でも、今は全くそんな事が無い。若い人達も、女性ひとりでも、行く人が居る。身近になったのです。言葉も通じない異国の地。そんなところにひとりで行くなんて、昔からすれば大変な勇気です。でも、今は、なんて事は無い。福岡は韓国に非常に近い。東京に行くより近い。でも、外国である事には違いない。だから敷居が高かった。今はそんな事ありません。気楽にいけるようになったら、楽しいですねよね。

ヨットだって、いつかは、みんなが、気楽にセーリングに出れるようになる事を願っています。ヨットにどんな装備をするか?という事も重要でしょうが、そんな事より、ポンと出る。何気に出る。気楽に出る。そんな気持ちが育っていけば、ヨットはもっと面白くなると思います。

そういう気楽さがもてるようになったら、温水が出る、冷蔵庫がある、広い、そんな事は二の次になる。遠くに行くなら別ですが、近くなら、かえってそんな物は邪魔になる。ちょっとキャビンがあれば、それでも十分。そんな事より、気軽さを失う事の方が困ります。

マリーナに着いたら、エンジンかけて、出航準備、10分以内には出れる。もやいを投げて、さっと出る。スイスイセーリングして、セーリングしながら、コーヒーかノンアルコールビールでも飲んで、またスイスイ。適当なところで帰ります。ポンポンともやいをかけて、セールにカバーをして、エンジン切って、帰ります。また、あした。何もたいそうな事は無い。ひとりで、2〜3時間のセーリングの世界に入る。その世界を気楽に堪能してきます。気軽ですが、セーリング中は、充実します。それなら、エアコン無くても、ドジャーが無くても、何も気にならない。今日のセーリングはなかなか良い感じであったなら、至福の時であります。

そんなセーリングが主流になってほしいと思います。奥さんをたまには誘って、この気軽でありながら、滑らかで、美しいセーリングを味わってもらいましょう。セーリングの後は、奥さん連れて、お買い物だって、映画にだって行く時間がある。日常生活のお楽しみのひとつ。誰にも賞賛される事も無く、単なる日常の情景があるだけです。でも、それだからこそ、身近であり、その短いセーリングの中にもドラマはある。

それぐらいカジュアルに乗りこなす事ができたなら、とってもかっこ良いのではないでしょうか?沖縄だ、小笠原だ、それはそれで楽しいと思います。でも、それだけがヨットじゃ無い。仕事帰りに、夕方のサンセットセーリングができる人はかっこ良い。シングルで、気楽にさっと出せる人はかっこ良い。こなれた身のこなしができる人はかっこ良い。手入れの行き届いた、自分のシンプルさを持つ人はかっこ良い。自分のスタイルを持つ人はかっこ良い。海に馴染んでいる人はかっこ良い。自分のヨットに馴染んでいる人はかっこ良い。セーリングを特別視せず、ヨットを特別視せず、日常に持つ人はかっこ良い。

よし、いくぞ!というより、ちょいとそこまで。こういう気楽さをもてるようになると、どんなヨットで、どんな装備で、どんなのが良いかすぐに解る。迷いは無くなる。すると、もっと気楽になれます。それで、もっとセーリングを堪能できるようになる。

こんなお気楽セーリングでも、海に出れば同じ事。波もあれば、風もある。スリルを感じる事もある。これはたまらんと思ったら、すぐに帰りましょう。それが出来る。これも気軽さのひとつ。何も、何かの記録を作ろうとか言う事ではありません。アマチュアが趣味として、自分の楽しいセーリングを日常生活の中に取り入れているのですから。 是非、カジュアルセーリングを取り入れてください。
そういう気持ちを持とうと思ってください。そしてやってみてください。そこに本当に気軽さを見出すまで。きっとヨットに対する見方も変わってくるのではないかと思います。

もちろん、お気軽セーリングに慣れたら、それが日常化したら、今度はセーリングをちょいと突っ込んでみましょう。より高い質のセーリングへと。するとまた、新たな発見が出てきます。それが、オーナーを引き離さない。魅力であります。しかし、その前にカジュアルです。

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