第十四話 風を遊ぶ

セーリングは風を遊ぶ行為という事になります。風で遊ぶのとはちょっと違います。ヨットを遊び、ヨットで遊ぶのとはちょっと違う。どっちから、どの程度の風が吹いてきているか、それに対して、上っても良いし、下っても良い。その風をどのように遊ぶかになります。できれば、あらゆる角度を遊んだ方がいろんなセーリングを味わう事ができます。

ギリギリ上れる角度まで上って、ちょっとでも油断するとセールの裏に風が入る。その時の風の取り込み量をセールトリミングで調整して、最も良い具合を探す。風が常に変化しますから、それらに適切に調整して合わせていくのは、なかなか難しい。でも、それがだんだん解ってくると面白くなりますし、それがこの遊びだと思います。風と自分のヨットの走り、調整具合、そういうものが、経験によって少しづつですが解って来る。それが面白くなれば、もうこっちのもの。上り以外にもあらゆる角度があり、タッキング、ジャイビングがあり、その行為後の調整もあり、いろんな事が少しづつ解って来る。

ただ、走るだけなら、ヨットで遊ぶのなら、たいした事は考えなくても良いわけで、ある程度すれば、すぐに乗れるようになる。そこがヨットの懐の深いところで、遊び方はオーナーの自由であります。
でも、ヨットで遊ぶなら、ヨット以外の何かを楽しむ事になりますから、別の何かが必要です。そうしないとあまり楽しさは続かないと思いますが、ヨットを遊ぶなら、何も必要無い。いかにを考えるだけです。そして、いつも言いますが、その時、どんな感じを得ているか、それをいつも意識しておく。

それで何が起こるか?すぐに何か特別な事が起こるわけではありませんが、いつもそういう意識を持ちながら、セーリングをする事をお奨めします。それが続きますと、やがて何かが変わってくると思います。それは、気持ちが落ち着くという事です。落ち着いていながら、緊張感も、スリルも、いろんなフィーリングを楽しめるようになる。落ち着いた気持ちをもったうえにです。緊張感やスリルに捉われなくなる。それって、結構、気持ちに余裕が出てきて、いろんな場面を楽しむ事ができるようになると思います。つまり、良い風が吹いた時だけ楽しめて、それ以外は楽しめないという事では無く、もっと幅の広い、いろんな場面をも楽しむ事ができるようになる。自信も湧いてくる。そうしますと、もっと面白くなる。

面白くなると、いろんな事を試したいと考えたり、いろんな事を学ぼうという意識が自然と出てきます。ある条件下だけが楽しいというわけでは無くなる。チャレンジ精神、向上心、そんな自分自身の意識の変化をも遊ぶ事ができる。あるのが、自分の行為とその結果だけでは、まだ不十分なのではないかと思います。長い年月をかけて遊ぶわけですから。行為とフィーリングとその結果を遊び、やがては、フィーリングを重視して遊ぶ事が優勢になっていくような気がします。そうしますと、もっといろんな場面でのセーリングを遊ぶ事ができるようになると思います。そうしたら、楽しいを超えて、実に面白い。下手さをも楽しめる。でも、まあ、ここに至っては下手でいる事の方が難しいとは思いますが。

車はとりあえず乗れれば良い。その場合でも、ちゃんと仕事ができます。車はあくまで手段である場合、乗れれば良い事になります。目的地に着ければ良いわけです。そうでは無く、もっと突っ込んだ乗り方をする人も居ますが、大半はそれで良いわけです。移動手段ですから。でも、どうせなら、ちょっとおしゃれが良いとか、乗り心地が良いとか、でも、やっぱり主目的は移動であります。

ヨットを乗れれば良いと考えますと、どうしても手段になってしまいます。それでは、ヨットそのものの味わいはなかなか得られないのではないかと思います。風で遊ぶ事はあっても、風そのものを遊ぶ事にはならないからです。もちろん、手段としてヨットに乗る事もありますが、それはあくまでサブ的な使い方、メインはやっぱり風を遊んだ方が面白いと思う次第です。

そう考えますと、乗り方はがらりと変わるのではないでしょうか?乗り方が変われば、面白さも変わる。舵を握っていればそれで良いわけじゃないし、セールも展開してさえいればそれで良いわけじゃない。そう考えますと、いかにするかが、面白さそのもので、その反応も感じ取れるようになる。
面倒くさいと考えてやらなかった事も、いかにを考える事によって、面白さになるのではないかと思います。もっとセーリングそのものを遊んでほしいと思う次第です。どこかに行くのも良いですが、プロセスそのものを遊んでほしいと思います。それは風を遊ぶ、ヨットを遊ぶ。風と格闘せずに、いかに味方につけるかを学ぶ事ではないかと思います。簡単だとは言いません。だからこそ、面白いのだろうと思います。

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