第九十七話 船体構造と素材

舵誌にFRPについて詳しく記載されていました。素材の違いによって、その特性から来る強度の違いが出てきます。SグラスにEグラス、ポリエステル樹脂、ビニルエステル、エポキシ等々。素材の違いは高価になったりもしますが、強度的にも強くなる。軽くて強くて。

最先端のレーサーは兎も角、我々一般が乗るヨットとして、確かに、ポリエステル樹脂よりビニルエステルの方が良い。このあたりは仕様書にも書いてあります。しかし、もっと大事な部分と言えば、その構造にあるような気がします。どんなに良い材料を使ったとしても、構造がどうなっているか?実は、こういう事は仕様書にも記載がありません。

例えば、船体の強度となる、バルクヘッド。このバルクヘッドが船体に対してどうのように設置されているか?昔は、積層していたものですが、最近ではパテで接着しているのもあります。船底の補強になるストリンガーもモールドを使って、FRP成形して、それをパテで船底に接着しているのもあります。それに対して、ストリンガーを1本づつ作って、船底に積層してあるのもある。強度は随分違ってくるものと思われます。

但し、昨今ではそこまで強度を求めないという乗り方が多くなってきたのだろうか?例え、そうだとしても、そのヨットが長い期間使われる事を考えますと、やはり、強度は大切であろうと思われます。素材の前に、どんな構造で作られるか、そのうえで良い素材が使われる方が良いに決まってますが、素材と構造という事を考えますと、やはり先に構造の方が物言うのではないかと思います。

構造は手間がかかります。その手間を省くか、やるかは、職人の時間を取る事になり、人件費に関わる。これは多分素材の高価さ以上に高くつくのではないか?でも、それを知る術は無い事は無いが、難しい。バルクヘッドも隠れています。できれば、船底とくっついてる部分を見るとか、キャビンの床をはがして、船底と骨組みがどういう具合に接着されているか?モールドで作ると見た目にはきれいなのですが、広い範囲のFRPの床下だと船底に積層して接着しようにも、積層できる面積が少ない。面積が少ないと接着力としては弱くなる。ましてパテ接着でははがれる事もある。このあたりは価格相応なのではないかと思います。

だからと言って、そういうヨットも多いのですから、一概に駄目とは言えないのかもしれません。ただ少なくとも外洋向きでは無いとは思います。

レーサーは高価です。何故か?軽くするのは当然ですが、船体が強くなくてはなりません。剛性が高くなければ速く走れない。セーリング性能を高めるには硬いハルでなければならない。そこが簡単では無いからです。おまけに軽くする為に高品質素材を使う。

高品質素材を使うより、まずは構造、そのうえで素材という事になるのではないかと思います。まあ、このあたりのバランスは取れているとは思いますが。造船所はコンセプトに合わせて戦略を練る。価格とのバランスを考えて。ですから、あまりそのあたりに神経質になる必要は無いかと思います。コンセプトとその価格にあらわれると思います。高価なヨットと安いヨット、それなりの理由がある。比較の対象にはならないと思いますね。要は何を求めているか?安い価格の本格外洋艇?それは無理ではないかと思います。

外洋艇とセーリング重視のヨットは特に強いハルが必要、それで高価になる。レーサーはさらに軽く作らねばならないのでさらに高価。これは仕方ありません。内装はまた別の事。同じコンセプトに同じような価格帯なら、あとは見た目でも何でも好きなヨットを選んでも良いのではと思います。コンセプトにも理由があるし、価格にも理由がある。どっちも同じなら、大差は無いような。そうなら難しい事は考える必要もないのでは。

しかし、剛性の高い、硬いハルのヨットでセーリングしますと、確かにフィーリングが違います。アマチュアヨットマンのセーリングはフィーリング第一と考えますと、ハルはやっぱり硬い方が良い。

次へ       目次へ