第八十九話 つれずれなるままに

エコという言葉が流行りだし、経済の在り様に変化が生じてきました。我々はもはや、経済発展のみを考えるわけにはいかないようです。地球資源をどんどん使い、その限界に近づいてきました。今度は地球を守りながら経済を考えなくてはならない。これまでの、右肩上がり一辺倒の経済成長では、うまくいかないようです。

今までは、物によって豊かさを享受してきましたが、これからは、物では無く、心に重点を置くべきかもしれません。昔から言われた心の時代が、やっと来たのかもしれません。気持ちの切り替えが必要です。海外に旅行に行って、ブランド品を買いあさる遊びだったのが、ゆったりとその地を過ごすとか、異なる文化を味わうとかです。

資本主義は競争原理によって、すごい発展を実現してきました。しかしながら、何事も極に達しますと、弊害も出てきます。常に新しい市場を見出さねばならない。その為には戦争だってあったわけです。ところが、今やそういう事の限界にまできたようです。

物は必要ですが、必要以上には要らないわけで、これからは、物集めから、その物を使って、味わいや、心の方にシフトしていく必要があるのかもしれません。そういう意味では、昔あった言葉、もったいないが生きてくるのかもしれません。時代は変わりつつあります。

ヨットでどこどこに行った、こういう記録を達成した、等々、何をしたかよりも、どんな味わいを持ってきたかという事が重要になるのではないでしょうか?どこかに行っただけでは無く、どんな味わいを得てきたかの方です。その味わいを面白がる事ができるならば、人生は実に潤いに満ちています。これは視点が違います。外に向かう視点から、内側に向かう視点への変化です。

レースにしても、勝った負けたの勝負だけでは無く、レースに出て走ってみて、どんな感じだったかも重要です。ここには、何も誇れるものがありませんが、勝つ事だけが誇りでも無くなる。勝つ事は難しいので、それが出来る事はすごい事ではありますが、それが全てでは無くなる。楽しかった。これが一番です。否、面白かったが一番です。楽しいは良い事ですが、その間にある楽しくない事も含めて、面白かったがあれば、それが一番かと思います。それには、勝つ事を目指さなければなりません。でも、勝つ事が全てでは無い。

味わいとは、何でしょうか?目で見て味わい、舌で味わい、体で味わう。これら全ての感覚です。つまり、物重視から感覚重視、これからは、感性が物言う時代ではないかと思います。どんな感覚を味わい、どんな感性を持っているか?これこそ、各個人特有の個性であると思います。個性にフィットするからこそ、癒される。

これからは、ヨットを出す時、誰を誘うか、どこに行くか、何を持っていくかばかりでは無く、自分が何を感じているかにも気をとめるのはいかがでしょうか?自分の気持ちに集中していれば、ちょっとした変化に、自分の気持ちがどう変わったかに気付きます。すると、たまには、何とも言えない気持ちの良さを確認することもあると思います。偶然にも、しびれるようなセーリングを味わう事もあります。自分の緊張感も明確に解るし、安堵感も解るし、微妙な心の変化も解る。結局は、味わいとは、自分の気持ちを味わう事ではないか、すると、世界はその為の道具として使う事になります。
一番は気持ち、その気持ちを味わう為に、良い道具がほしくなる。

良い道具とは何か?良い材料を使って、腕のある職人が手間をかけて造る道具。高いヨットは人件費だと、何か価値が無いような言い方をする人が居ますが、この人件費を払うかどうかは、雲泥の差であります。高い人件費、安い人件費、出てくる物は違う。高い値段を支払って、買うのは、その道具がもたらす感性にあります。物を通じて、フィーリングを買うわけです。今までは、フィーリングは重要視されませんでした。しかし、これからは、フィーリングの時代ですから、そのヨットがどんなフィーリングをもたらすか?これが重要かと思います。

ヨットをご案内する時、たまに、見てすぐにどうですか?と聞く事があります。そして、たまに、今見たばかりで、解るわけが無いと言われます。しかし、自分の気持ちをいつも認識していれば、ぱっと見てぱっと解るのではないでしょうか?もちろん、自分にとって良いかどうかです。少なくとも、その後もっと見る価値があるかどうかです。いつもでは無いかもしれませんが。でも、少なくとも興味ある物を見る時、ぱっと解る事が多いと思います。それによって、その後、良いところを見ようとするか、そうで無いところを見出そうとするかに分かれていきます。つまり、後は自分の感性を確かにしたいという頭脳の働きになると思いますね。自分を説得しようとしているようなもんでしょう。

感性は個人に備わったものですし、その感性さえ、いつも認識できれば、いつも適切な判断ができるのではないでしょうか?何故なら、感性こそが、自分自身を最も知っているからでしょう。頭脳はそれを知らない。考えて、判断する事もありますが、むしろ、この方が多いのですが、数学の問題を解くとか、スケジュールを計画するとかには良いですが、遊びは、感性が良いと思います。

夢も、達成感も、すべては感性です。他人が何と言おうが、自分の感覚がグッドだと言っているなら、OKなのではないでしょうか。

目で見た美しさ、海の風景、耳で聴いた波や風の音、鼻でかいだ潮の香り、体で感じた動き、それらを全て合計した感じ。じっくり感じてみてはいかがでしょうか?

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