第八十六話 セーリングという選択肢

多分、昔はみんなセーリングして楽しんでいたのだろうと思います。キャビンも今ほど大きくなく、装備も今ほどは無かった。ジブもファーラーじゃなかったし、ドジャーやビミニトップ等も無かった。それだけに、今に比べれば、セーリングは楽では無かったかと思います。しかし、嬉々として、セーリングを楽しんでいました。

それがやがて、ジブファーラーなる物が採用され、キャビンは大きくなって、冷蔵庫や温水が付けられるようになりました。それも時を経ますと、それらがみんなオプションでは無く、標準仕様となります。それにつれて、人は外では無く、キャビンの中に意識が移っていきます。判断は外では無く、キャビンになっていきます。それは、このキャビンはどれだけ居住性が良いか、という判断が比重を持つようになってきたと思います。

この意識の変化は、気付かないうちに、人を外から内に移動させ、それにつれて、かつてのセーリング意識は削られてきたかのようです。ヨットはセーリング?ヨットはキャビン?時代の流れですから、どっちが良いとか言うつもりはありません。キャビンを楽しむ人達が居て、セーリングを楽しむ人達が居る。ただ、最近の動向を見ますと、キャビン側に振れすぎではないかと思います。振り子は極に達しますと、振れ戻ります。それと同じように、これから、ヨットはキャビンから再びセーリングに振れ戻していくのではないかと思う次第です。私の希望的観測です。

キャビンが広いのは良いが、そこまで必要か?ある方の素直な意見です。私も同感しました。欧米の量産艇は相変わらずキャビンの拡充に重点があるように思えます。しかし、一方でデイセーラーというヨットも増えてきています。私がこのHPでご紹介した他にも、続々と出てきています。一気に振り子が振れ戻す事は無いでしょうが、確実に振れ戻しは始まったような気がします。

かといってキャビンヨットが無くなるわけでは無いと思います。つまり、キャビンを楽しむ人達と、セーリングを主に楽しむ人達の明確な違いが出てくるのではないでしょうか?そういう意味では、いろんなバリエーションを経験してきたヨット先進国では、みんなが落ち着く所に落ち着いてきたと言えるかもしれません。

実は、キャビンもセーリングも、フィーリングを楽しんでいる。キャビンのフィーリングやセーリングのフィーリングです。どっちが自分にとって心地良いのかです。そういうのが明確になっていくのかもしれません。大きなキャビンが当たり前の時代、それを経ますと、一部には、先ほどの意見のように、そこまで必要か?と思う人も出てくる。一度は、そういう極にまで達しないと、次へは進め無いのかもしれません。欧米は、丁度そういう時期になってきたのかもしれません。アレリオンがアメリカでかなり売れてるとは言いましても、十数年前にはほとんど売れなかった。ニッチ市場でした。ところが、最近は非常に良く売れるようになった。時代の変化が感じられます。それにつれて、ご存知の通り、アレリオン以外にもたくさんのデイセーラーが造られるようになった。明かに時代は変わりつつあるのではないかと、感じます。

キャビンを否定するのでは無く、セーリングという選択肢がひとつ増えたという事になると思います。それも、クルーを不要とする、イージーハンドリングでありながら、高い帆走性能を持つヨット。レースでは無く、純粋にセーリングを楽しもうという乗り方。それがセールフィーリングを取り戻そうというフレーズです。これまではレース以外はクルージングでした。しかし、これからは、レース以外、クルージング以外、という事で、セーリングという選択があります。

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