第九十二話 レスポンス

いろんなヨットに乗りますと、それぞれの違いを感じます。速いとか遅いとかの他に、フィーリングの違いに驚かされる事もあります。それを言葉で言い表すのは難しいですが、ヨットによって、こんなに違うのか?シートを少し出し入れした程度では反応が感じられない、風にちょっとぐらい強弱がついても解らない、そんなヨットもあれば、そのわずかな変化をヨットの動きとして感じられる艇もあります。どっちが良いという事では無く、前者はロングクルージング向きでしょうし、後者はセーリング向きだと思います。

ロングのクルージングでは神経を集中してセーリングに長期間居る事はできません。ですからある程度鈍いぐらいの方が良い。反対にセーリングでは、微妙な変化さえも反応してくれる方が面白いわけです。風がふっっと上がった時、その変化に対してヨットに加速感を感じる事ができれば、セーリングして面白い。その感覚を味わえるわけです。セーリング派にとって、このレスポンスの良さはたまりませんね。時には、ゾクゾクする事もあります。

シングルのセーリング派にとっては、ヨットの高い安定性があった方が良いし、軽いが堅い船体が良い、レスポンスの良いヨットが面白い。楽に、セーリングの変化を味わえるヨットが良い。微風からちょっと風が上がるだけで、ふっと加速なんかしますと、おっと思いますね。それにスピード感です。

絶対的なスピードというのがあります。この風に対して何ノットで走れるか?しかし、面白いのは、人は感覚で捉えます。同じスピードなのに、あまり感じないのと、スピード感を感じるのとあります。重要なのはこの感覚でしょう。遊びなんですから。どこどこまでに何時間で行く必要があるなら、絶対的スピードが何ノット出ているかが重要ですが、セーリングを遊ぶなら、感覚の方が大切です。もちろん、水面に近い方がスピード感があります。そして、このスピード感は安定性が高いなら、恐怖感は無く、面白い感覚になる。

舵も軽いか重いかの区別だけでは無く、水流が当たる感覚、舵を切った時の動き、シートの出し入れ、バックステーの引き込み、いろんな操作の場面に、ヨットがどう動き反応するか、そしてその時の感じはどうだろうか?操作に対するレスポンス、そしてその時の自分の感覚、良い悪いでは無く、上手い下手では無く、変化を感じる。その変化を楽しむというのが良いと思います。

セーリングは、頭脳を使って、いろいろやって遊ぶ事ができます。それもひとつ。しかし、さらに感覚的に変化を感じとり、その感じを楽しむ事ができれば、もっと面白いのではなかろうかと思います。フィーリングの遊びです。

音楽を聴く時、何も考えずに、完全受動で、感覚で聴きます。意味も解らない外国の曲でも、感じる事ができる。この完全受動の感覚だけの時こそ、時に感動という波が来る事があります。従って、理想的には、完全受動態勢で、感覚のみで捉えてセーリングできれば、きっと面白いのではないかと思うわけです。自由自在とはそういう事を指すのではないか?いつかは、そういうセーリングができるようになればと思います。

誰でもそうなれる。車を運転していて、ハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだり、そんな事をいちいち考えてからやる人は居ません。無意識にやっているわけです。ただ、車の場合は他の車や通行人などに注意を払いますから、感覚遊びというわけにはいきません。しかし、ヨットでしたら、いつかは無意識に舵を操作し、セールを操作する事ができるようになって、そうなれば、完全に感覚遊びができるようになる。そうなったら、どんなにか面白いセーリングができるでしょうか?今のところ、理想的なセーリングとあこがれています。車より遥に簡単にできるようになると思います。
いつかは、そういうセーリングを味わってみたいもんです。

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