第八十二話 選択

何かを選択する際、何をもって決めるか?例えば、車なんかですと、昔はエンジンがどうこうとか、足回りがどうとか言っていましたが、でも、多くは外観のデザインとか中の広さとか、最近ですと燃費とかでしょう。或いは、メーカーで決める事もあります。これなどは、そのメーカーに対する信頼度という事になります。細かいデータをつき合わせて、それで決める事はあまりないと思います。

ヨットについても同じような感じでしょうか。どういう造船所がどんなヨットを建造しているか、だいたいは解っています。好きなブランド、その中から気に入ったデザインを選ぶ。予算も含めてですね。
それが一般的かと思います。データなどはあまり気にしない。一般的使い方というのは、多分、近場、沿岸のクルージングだと思います。それに対する造船所の造るヨットはそれ程大きくは違わない。という事はデザインで選ぶという事になり、車と同じかと思います。でも、燃費は気になりませんね、ヨットの場合。

しかしながら、車における最近の変化は、スポーツカーにあるそうです。団塊の世代と言われる方々にとって、家族は夫婦だけとなり、何もセダンである必要性が薄くなってきました。それなら、若い時に乗りたかったスポーツカーに、という方が増えてきたようです。何となく気持ちが解ります。
つまり、若い時、子供ができた時、子供が旅立ってしまった後、等々と車の選択は変化します。それは車が必需品で、役に立つ道具だからだと思います。

さて、ヨットについては、大きなキャビンが一般的になりました。これはこれで、使い方によっては、とっても役に立つ。キャビンでの寛ぎ、クルージングの旅、こういう一般的クルージング市場に、レースでは無い、セーリングを提案したのがデイセーラーです。これは価値観の変化の提案です。大きなキャビンが体勢を占める時に、全く逆の性格を持つ価値観の提案になります。これは車のセダン市場に、スポーツカーを導入したようなものでしょう。以前のように、エンジン、足回り、ボディー剛性なんかも重要です。何故なら、スポーツカーはスピードだけでは無く、加速感、コーナリング等々のフィーリングが重要だからでしょう。つまり、ドライブそのものの感覚が大事になる。高性能のスポーツカーは、走っていて気分が良いわけです。この事は、車が仕事をする役目から、遊びに変化します。

ヨットは元々遊びですから、感覚的にはこのスポーツカーと同じ感覚が重要視されると思いきや、そうではありませんでした。でも、今欧米で新しく提案されてきていますデイセーラーと称するヨットには、この遊び感覚があります。セーリングを単なる移動と考えないで、セーリングそのものから得られる感覚、それを遊ぼう、味わおうという事です。

この味わいに必要な事は、重心の低さ、ボディー剛性の高さ、セールエリア、軽く強く、操作性、そういう他のクルージング艇には無い要素が必要になります。それが無いと、セーリングの感覚は損なわれてきます。ヨットのサイズというのがありますが、大きなヨットから小さなヨットにはしたくないという考え方もあります。しかし、それは同じクルージング艇に言える感覚かもしれませんが、デイセーラーにはあてはまらないと思います。何故なら、目的とする感覚が違うからです。セダンからスポーツカーに乗り換える感覚かと思います。これは一種の価値観の変化です。事実、デイセーラーの多くはかつてはビッグボートのオーナーです。クルージング艇には無い感覚を味わいたいという事です。それは自由自在、気軽さ、セーリング感覚です。

デイセーラーがスポーツカーと同じと言っても、スポーツカーが誰でもドライブを楽しむ事ができるように、デイセーラーも誰でも、初心者でも、むしろ通常のクルージングヨットよりも楽に操船できるように造られています。そのうえ、セーリング感覚を大事にしたドライビングならぬ、セーリングを楽しむ事ができるようになっています。

そもそも車はどんな車でもひとりで動かす事ができますが、その方が便利が良い。ヨットだって、本当はひとりでも楽に操船できるなら、その方が都合が良い。仲間が居る時も、居ない時も、いつだって自由に楽しめる方がいい。セーリングを楽しむというのは、クルージング艇でセーリングするのとはフィーリングが異なります。その異なるセーリングを楽しもうという話です。

クルージング艇の目的は寛ぎのキャビンと、旅にあります。デイセーラーは目的地の無いセーリングにあります。そんなセーリングが面白いのか?これが面白いんですね。一般クルージング艇では味わえません。滑らかなセーリング、加速感、舵のレスポンスの良さ、こういう感覚を気軽に遊ぶのも悪く無い。スポーツカーの感覚です。

デイセーラーがスポーツカーと言っても、最近のデイセーラーはでかいのも出てきました。そういう意味では、ほとんどの使い方において、キャビンの寛ぎや旅なんかもある程度カバーできる。同時に、高性能、簡単操作、気軽さ、セールフィーリングを維持しています。

という事は一般の殆どの使い方に適合しています。クルージング良し、寛ぎ良し、セーリング良し、しかしながら、こうなりますと高価なのであります。これが一般ヨットと変わらないぐらいの価格なら、文句なしにデイセーラーに軍配が上がると思うのですが、そうも行かないのが現実です。

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