第七十五話 デイセーラーの大型化

この二つは互いに相反する性格を持つ。別荘的性格を強くすればする程、セーリングのフィーリングは損なわれ、セーリングの性格を強くすればする程、別荘的快適さは削がれる事になります。
理想的には、この二つを両方持てれば、時と場合によって使い分ける事ができますが、そうもいきません。それで、デイセーラーの大型化が始まったのではないかと推察します。

デイセーラーはセーリングをいかにと考えられ、理想的なセーリングを提供してくれますが、キャビンが狭いという点は仕方無い。しかし、それでもそこそこキャビンがほしいと思う時、同時にセーリングのフィーリングを損ないたくない時、このデイセーラーを大型化してキャビンのスペースを長さでもって増やしてきた。それが昨今の各造船所の流れかと思います。アレリオンには45フィートモデルが誕生しますし、モーリス社には52、フレンドシップには53、ブレンタには60フィートが既にある。そしてどれもが、パワーアシストによって、楽に操船ができ、セールフィーリングを損なわない。

 これらのサイズは、これまでのデイセーラーという概念では捉える事ができない。しかし、基本は同じなのです。長い間クルージングヨットを乗り続け、ある日、もっと面白いセーリングがしたいと感じた時、もはや長い航海をしなくても良い、もっとセーリングの妙をと感じたいと思った時、レーサーではクルーが居ないし、もっと簡単に乗れて、セーリング性能の良いヨットはないか?それで出てきたのがデイセーラーです。スポーツカーのように自由自在にその性能を楽しめるヨットとして、世界のひとつの流れを作った。そして、その一部の方々は、通常のクルージングヨット程必要では無いが、この性能を維持したまま、もう少しキャビンがほしいと思ったかもしれません。

実際、本当の長期航海で無い限り、それほど重要では無い。そこが本宅では無いので、何も部屋数がたくさんあるよりも、4LDK,5LDKというより、1LDKとか2LDKでも別荘的には充分かと思えます。それにコンパクトなギャレーで充分かもしれません。デイセーリングからそれこそウィークエンドセーリング、1泊か2泊かその程度なら充分。

車にもスポーツカーがあるように、ヨットの世界でもスポーツヨットがある。それがデイセーラーかと思います。そして、セーリングが100%遊びの世界であるだけに、このスポーツヨットの存在は意義深いと思います。クルージングヨットはキャビンを遊び、デイセーラーはセーリングを遊ぶ。そしてデイセーラーが大型化した事によって、キャビンをもう少し増やし、それでもセーリングのフィーリングは損なわないようにした。結局、長期クルージングと別荘を持つという事以外では、デイセーラーの方が断然面白いし、使い勝手があると思います。そのセールフィーリングを一旦味わうと、もはや他には乗れない。スポーツカーとキャンピングカーの違いです。

大型化していくデイセーラーの特徴は、フリーボードは低い、バラスト比は高い、カーボンマストにセルフタッキングジブ、大きめのメイン、電動ウィンチによるパワーアシスト、ステアリングのポジションから全てが操作できる。船体が軽いけれども堅いのも特徴です。あくまでセールフィーリングを大事にしています。セーリングの面白さはレーサーだけのものではありません。

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