第三十三話 エンターテインメント性

ヨットは確かに面白い乗り物ではあるのですが、エンターテインメント性に欠けている。ヨットというエキゾチックな感じ以外、本当に誰もが感じる心地良い時というのは、年間を通じてそう多くは無い。誰もが、遊びにはエンターテインメント性を求め、楽しく過ごせる時をもちたいと思うのだが、マリーナ自体が楽しい場所で無い限り、ヨットのエキゾチック性はやがては薄れ、出れば、波の高い日も少なくない。コクピットで楽しい食事のひと時をと思っても、誰も居ないマリーナではこれも寂しすぎる。

エンターテインメント性を求めて、旅に出る。それも悪くは無い。しかし、年間を通じて何度行けるかと考えれば、これもそう多くは無い。ヨットにエンターテインメント性をどうやって創造する事ができるか?それが、これからの課題かもしれません。

一方で、単なるエンターテインメント性だけでは無く、もっと面白さ、冒険性を求める人も居る。それらの人達にはセーリングは格好の材料になる。実際、年間を通じてセーリングをするようになると、本当に良い時、それと自分の休みが重なる時はそう多くは無い事に気付く。多くは、風が弱すぎたり、或いは強すぎたりと感じる。本当に良い時だけが面白いセーリングであるなら、ヨットはそんなに面白いものでは無いかもしれません。しかし、良い時ばかりだと逆に飽きるものです。
経験を積んで、慣れて、腕を上げていく事によって、面白いと感じる機会が、本当に良い時だけでは無く、幅を広げようというものです。

始めてヨットに乗った時、大きくヒールする船体に驚き、恐怖を感じます。しかし、経験を積んで、腕を上げる事によって、かつて恐怖を感じたヒールが、恐怖で無くなる。もちろん、こうやって全てを克服できるわけではありませんが、少なくとも、面白いと感じる幅は広げる事ができる。それはまた、腕だけで無く、ヨット本体もその手助けとなる。良いヨットとは、オーナーの目的に対して、見方になってくれるヨットです。それで、目的に応じて、ヨットも違うので、その選択をする必要があります。

例えば、非常に安定性の高いヨットは、強風時において、オーナーを助けてくれます。でも、もし、もっと腕に自信がある人は、ヨットの不安定さでも楽しめるかもしれません。ヨット本体の能力プラスオーナーの腕を100%としたら、その割合の配分をどうするかは、オーナー次第という事になります。どっちが絶対に良いとは限らない。ただ、一般的には安定性が高い方が楽であるとは言います。もっと冒険性を高めたかったら、そういうヨットを選ぶ事もできる。

そこで、ヨットライフは、エンターテインメント性と冒険性のふたつの側面があります。マリーナはエンターテインメント性が高く、セーリングは冒険性が高い。どれを選ぶかもオーナーの自由です。でも、今はセーリングの冒険性ばかりが目立つ。やはりトータルで見ますと、もっとエンターテインメント性を創造していかなければならないのかなと思います。

誰でも簡単にできる事、価格が安い事、楽しい事です。そのひとつはデイセーリングだろうと思っています。その為には、30フィート以下ぐらいで、安定性が高く、取り扱いがし易いヨットがもっと増えるべきかもしれません。デイセーラーは、そういう意味では、こういうヨットが出てきた事は歓迎すべき事かと思います。しかしながら、価格面では高い。この先、もっとこういうデイセーラーが流行れば、将来はもっと安いのが出てくるかもしれませんね。是非、そうなってほしいものです。

キャビンは両サイドにベンチシートがある程度でもOK、ギャレー無し、清水無しでもOKじゃないでしょうか?こういう気楽なデイセーリングにおいてです。マリーナから出るだけならエンジンも船外機でも良い。それより、マリーナを出てすぐにセールを上げて、帆走に入る。ウィンチ等は一切使う必要が無いような、そして是非、ジブブームは採用したい。これで前方向が実に楽に走れます。こういうヨットは初心者にも良いし、ベテランにとっても、楽な分微妙なトリミングとしてセーリングを深く遊ぶ事ができる。そして何より、高い安定性はほしいものです。こういうヨットが増えてきますと、気楽にセーリングを楽しむ事ができます。そのうち、中にはエンジンを不要とする人も出てくるでしょう。たくさんの人達がデイセーリングを楽しみ、おまけに帰ってきたら、マリーナにエンターテインメント性があれば完璧であります。狭いキャビンの代わりに、広いコクピットで、マリーナとの一体感において、コクピットがそのヨットの顔になる。コクピットはリビングルームなのです。そしてキャビンはベッドルーム。

使う側の意識も変わらなければなりません。キャビンは本当に重要か、冷蔵庫やトイレ、温水、シャワー、これらも本当に重要か?もちろん、旅にとっては必要な装備であります。しかし、デイセーリングにおいてもそうでしょうか?これらを削除する事によって、もし抜群の安定性となり、楽に操船できて、最高の走りができるとしたら、それもデイセーリングというジャンルで、自転車やバイクのように乗り回せるとしたら、果たして、それらは重要か?これらはヨットに対する価値観です。
どちらが正しいわけでも無い。デイセーリングを楽しむにおいては、エンターテインメントはコクピットで、冒険性はセーリングで、キャビンは雨の日か、寝泊りする程度。それでカッコイイデザインなら充分ではないかと思う次第です。

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