第八十九話 ヨット談義

昔は何人か集まりますと、自然にヨットの話になって、セーリングの話になりました。上り性能は何が影響しているのか、フラクショナルリグとトップリグではどっちが良いか、そんな終わりの無いヨット談義を延々と続けるわけです。それがまた面白い。昔のヨットマンはそうやって丘の上でも楽しんでいた。

それが最近では非常に少なくなってきたように思います。あるとしても、どこどに行ったとか、温泉とか郷土料理とか、ヨット以外の話が多くなってきました。この事はつまり、セーリング離れが進んできたと言えると思います。井戸端会議はご時世を表す。それがご時世という事になります。それをもう一度、セーリングに戻したいというのが私の願いであります。それで、何人か集まれば、昔のようにヨット談義に花が咲く。そうやって、お互いに情報交換したり、学んだりできるし、何しろ、面白い。こうだ、と言う人が居て、いやいやそうじゃない、こう思うとか論議が始まるわけです。終わりの無い議論と言いますか、井戸端会議です。

こういう状況ができますと、マリーナに行っても、仲間が集まると、そこで世間話です。クラブハウスのあちこちでいろんな話が飛び交う。これもマリーナを賑やかにさせる。そんな効果もありそうです。こうなりますとシングルハンドのオーナー達も丘に上がった時はみんなで楽しむ事ができそうです。できればシングルハンドの会なんか作ったりして。アメリカにはそういうクラブが既にあります。
そしてお互いのヨットに乗せてもらったり、教えてもらったり、シングルハンドだけのお祭りレースをしたり、人が集まれば、そこからまた何かが生まれる。

誰かがひとつ意見を言う。なるほど、そうかと思う。ところが、そこに誰かがまた違う意見を言う。いろんな見方がある。どれでも、絶対に良いという事はあまり無く、たいていは乗り方の違いもあれば、体力の違いもあるので、それぞれに良い事になります。しかし、そういう違いを知るというのも面白いものです。自分ではこれが絶対だと思っていたのが、案外そうでも無かったりして。そして、最後は乾杯で終わる。マリーナのクラブハウスというのは、そんなスペースではないでしょうか?

これが、どこどこ行ったでは、こんなには盛り上がる事はありません。あそこは良かったよ、桟橋があって、そこからタクシーで旅館に行って、温泉がまた良い。そんな事ではなかなか話が盛り上がらないのでは?そこがセーリングの話になりますと、これが盛り上がる。話が尽きない。そりゃあそうです。決まった結論は無いのですから。結局は、コミュニケーションと、小さいですが社会の形成です。社会は時にうっとおしい事もありますが、社会が無いとまた楽しむ事もできない。ヨット談義は好きな方々の集まりによる形成ですから、セーリングという価値観で統一されています。一体感がある。たとえ意見は違っても、その根底は統一されています。ですから、楽しい。

さあ、これからは二人集まったらヨット談義をしましょう。そういう仲間を増やしましょう。きっと面白い議論ができると思います。その時、ヨットそのものの議論もあるでしょうが、それはセーリングを基点に考えての議論である事が望ましいと思いますね。話題もたくさんありますし、何しろ、みんな感心がある事ばかりです。

昔、ウィングキールが一時流行りました。あのウィングキールって、どうなの?キール面積が増えるんで良いか?面積が大きくなると、スピードは落ちる?或いは、上りが悪くなる、横流れする?上り性能はやはり深い方が良いのかな。でも、まあ、吃水が浅いので安心かな?ある話では、ウィングが艇体の上下動作を抑えるという話もありますよ。まあ、設計によるんじゃない?皆さん、自分の経験から、想像も交えながら、意見を言います。間違っていたって良いんです。みんな素人なんですから、自分の経験から来た実際の体験ですから、それに初心者だって仲間に入れます。解らない事は多いでしょうが、質問ができる。すると、そこからまた話題が発展していきます。話題は尽きません。ヨットマンの酒の肴にはとっても楽しいと思います。

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