第三十八話 ヨットをおもちゃに

ヨットはおもちゃです。いろいろ扱いまわして遊ぶという事ができます。大きなサイズはそれだけ大変ではありますが、基本的には同じです。ヨットをおもちゃにするには、それだけ乗り回す必要があります。自分のヨットが解らないと扱いようが無い。今のヨットは多くは、パソコンや英会話テープのようなもので、押入れにはいったままというのが多い。それでは、もったいないので、せっかくなら、押入れから出して、いろいろ遊んでみたいものです。

まずは、何度も乗る事が先決です。セーリングを意識して、自分なりに乗り回す。セーリングを意識すれば、必ず、セールの知識が増えてくる。増えてくるとこうならないかとかを考えます。セールコントロールをもっと簡単に、そして思い通りに形を作る。それに舵への影響も考える。

新艇時にマストを立てたら、それで終わりではありません。それで走って、こういうヨットなんだというのは少し違う。走って、感じを掴んで、こうならないかと考える。また、ワイヤーは伸びるもんですから、当然ながら後日の調整も必ず必要になります。これらは、セーリングを意識しないと解らないものです。セーリングを意識して、乗り回して、ヨットを扱いまわすのがおもちゃ化です。いろいろ扱って遊ぶのは面白いからです。元来、ヨットというのはそういうおもちゃでしょう。

マストが左右に片寄らず真っ直ぐ立つのは当然ですが、前後の傾きはフォアステーの調整で行う。フォアステーの長さが決まれば、それがレーキと言われる、マストの後方への傾きになります。今より、マストを起こしたいのであればフォアステーのターンバックルを締める。その逆なら緩める。こうやってマストレーキが決まる。舵に伝わる感触が、ヨットが風上に上ろうとする力が強いか、その逆か?バックステーを引いて、マストをベンドさせるも、フォアステーがピンと張った状態で引くと、今度はマスト中間部が前側に出てくる。それをどこまでで止めるかもステイの調整でできる。下部のステイをきつく締めると、マスト中間部が前側に出てカーブを造る妨げとなる。バックステーを引いて、どこまで出すかを決める事ができます。すると、セールをフラットにする時、きれいにできる。

車ならエンジンを扱うのはかなり大変ですが、マストの方がまだ見て解るので、その分はやり易い。最初から、面倒、解らん、とか思わずに、誰かに相談したり、本で知識を得たりして、いろいろ扱うトライが必要です。それで、思った通りに、セールコントロールができるようになると、もっと面白くなります。もし、解らんようになったら、誰かにやり直してもらえば良い。それも授業料です。授業を受ければ、知識ができ、自分でできるようになる。

これらはレーサーしかしない事でした。しかし、これからは、セーリングを遊ぶその一部の遊びの要素として、セール、マスト、そういう遊びもすると面白くなります。クルージング艇で、全くそういう事をしないヨットは多いのですが、そのせいで、ちょっと強風になったら、かえってしんどい思いをしたり、せっかく快走が味わえるのに、風をどんどん逃がすか、リーフするしか無いというようなヨットも多い。これでは快走を味わう事ができません。フォアステーはだらだら、それに加えて、バックステーアジャスターが無い。そうなると、風が強いと、セールは丸く大きなドラフトを抱え、大きくヒールしてしまう。それでシートを出して風を逃がすも、もはやそのコースを走る事はできない。それで、セールをリーフして小さくする。もし、ここで、バックステーアジャスターを引いて、セールをよりフラットにできたら、快走を味わえるかもしれません。そうすると、クルージング派の方々も、きっとセーリングが好きになる。かも?チューニングとか言いますと、一見難しそうに見えます。しかし、ピッタリとまでは行かないまでも、いろいろやれる範囲は相当あると思います。マストを観察して、バックステーを引いたらどういう具合に曲がるかを考えてみましょう。そして、どういう風に変化するかをまた観察してみます。誰でも、セーリングをいつも意識して乗っていると、少しづつ観察眼ができてくる。違いはただそれだけです。誰でもできる。

それで、いろいろ解ってきて、セーリングができて、いろんな状況に合わせて調整ができて、これが多少的確で無いにしても、きっと面白くなる。するとヨットはおもちゃとして、存分に遊ぶ事ができるようになる。解れば面白くなるのは、誰でもそうだろうと思います。最初は誰でも解らない。解らないなりに、セーリングを意識しながら乗り続ける事によって、観察眼だけでは無く、感覚も鍛えられる。自然に誰でもです。試乗してすぐに解る人は相当な人、既に観察眼とフィーリングを持っている人ではないかと思います。そうでなければ、試乗程度では解らない。それを養う意味でも、ひとつのヨットに相当乗り込むと、それで基準ができる。自分のヨットと比べてどうか?プロの方々は、いろんなヨットに乗って鍛えてますから、基準はひとつでは無く、たくさんのデータを持っている。

それは兎も角、自分のヨットを徹底的に乗り回して、おもちゃにしてしまいましょう。ヨットがたいそうに思える内はまだまだ、おもちゃにして自分で扱いまわしすようになると、おもちゃになる。すると断然セーリングが面白くなる。そう感じている人は良く乗るし、冬でも乗ったりしてますね。寒いですが。面白く無いと、条件が悪い時は乗りたく無い。晴天の程よい風の時しか乗りたくなくなる。寒いのも熱いのも嫌。でも、そういうチャンスはそう多くは無い。それに自分の休みと重なるとなると、又少ない。でも、面白さを感じると、チャンスはグンと増えてくる。

ヨットは遊び、遊びは面白く無いといけません。それには、いち早く、ヨットをおもちゃにしてしまう事です。そうなると、もうこっちのもの。心から遊ぶ事ができる。これがレジャーとは一味も二味も違う趣味的、スポーツ的、ヨット遊びです。子供がおもちゃを持つと嬉々として遊ぶ。あれです。ヨットは完成品ではありません。おもちゃとして、扱いまわしてこそ、意味が出てくる。逆に完成品なら、面白さは薄れてしまいます。そこに自分自身を反映させる事ができる。それができて完成品となる。
つまり、ヨットはオーナー無しでは未完成、そこにオーナーが居てこそ、完成品となる。ヨットはオーナーが扱いまわす事によって完成するものではないでしょうか?

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