第十六話 スピードの不思議

スピード感というのは不思議なもんで、例えば、高速を時速100KMで走っても、たいして速さは感じません。ところが、海をボートで走ると、30ノットなんか速さを感じます。30ノットと言えば、時速
55kぐらいなもんです。これがヨットになりますと、7ノットとか8ノットとか程度でも速さを感じます。
さらに、小さなヨットの方がスピードを感じるし、フリーボードの低いヨットの方がスピード感があります。

このスピード感というのが遊びには大事で、競争で無いなら、スピード感を遊ぶのなら、スピード感を感じるヨットは面白い。スピードは相対的、例え10ノット出たとしても、考えてみれば、たかが時速で言えば18K程度ですよ。自転車でも軽く走れる。車ならのろのろ程度にしか感じない。ですから、絶対的スピードはたいした問題じゃ無い。重要な事は、それをどう感じるかです。ヨットで10ノットで走るのは大変です。かなり速い。しかし、それがメガヨットになると、たいして速いとは感じない。感じが面白さの秘訣、絶対的なスピードで、何ノット以上が面白いというのは無いわけです。

スピードの不思議は、人間の感覚の不思議です。人の感覚は相対的ですから、こうしたら絶対というのが無い。ですから、自分の感覚に従うのが良い。こうした方が良い、ああした方が良いと人は言いますが、自分の感覚に答えを見出した方が良いと思います。何が面白いのかは、自分のフィーリングが最も解っている。

ところが、問題は他にある。それは、自分のフィーリングを意識しないという事です。何かがあって、何かを感じる。でも、意外と、頭脳が動いて、常識が働いて、こうあらねばと思う、無意識に思ってしまう事があります。ですから、意外と自分のフィーリングが解らない。特に微妙な感覚なんかは無視されます。ですから、それが今一楽しめない事に繋がっていくのではないかと思います。

クルージング派のセーリングは絶対的何かを求めるセーリングではありません。レースは誰よりも速く、旅は、絶対そこに着きたい。しかし、デイセーリングは、相対的で良い。勝負でも無ければ、急ぐ旅でも無い。ですから、相対的な自分のフィーリングを楽しむ方向に考えるのが良いと思います。最速を求めるにしても、レースではありませんから、ここから、そこまで行くのに最も短い時間で行く必要は無い。ゆっくり構えて、ゆっくり動いたとしても、セールセッティングが良ければ最速が出る。それで良いんだろうと思います。それが楽しめれば良いと思います。

実際、そこそこのスピードが出てきますと、面白さを感じてくると思います。そこそこのスピードというのはヨットによって違い、例えば、非常にフリーボードの低いノルディックフォークなんかですと、結構スピード感がある。絶対的スピードはたいした事無くても、フィーリングとしては面白い。それで良いんだろうと思います。

ゆっくり動いて、いろんな調整をしてみて、少しづつ変化を楽しむセーリング。これなら、誰でもできます。絶対的な面白さは、その気になれば、誰でもできるものである必要がある。初心者でもベテランでもです。それがデイセーリングの真骨頂です。自分の気分を優先して走る。ならば、やっぱりシングルハンドが最高ですね。いくら気の合う相棒が居ても、気分はやっぱり違う。長い事乗って行きますと、やはり少しづつ違ってきます。

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