第九十三話 伝統文化

日本には長い歴史があり、その中で創られてきた建造物、技術や文化があります。一方で、近代化を目指した歴史があり、欧米の文化を取り入れてきた。特に、アメリカに代表される資本主義は経済至上主義で、それはそれで我々の生活を便利にしてきた事は事実かと思います。欧米に追いつき、追い越せと言う時代があり、必死になって働いてきたわけです。

しかし、ここで考えてみますと、西洋文化、資本主義を至上とする限り、欧米には叶わないのではないか。数値の上では上回ったとしてもです。何故なら、彼らの文化であるからです。そこで、体等に立ち回るには何が必要かと考えますと、それは伝統文化をアイデンティーにする事ではないかと思います。

建造物を大切に保存する事や伝統技術を継承していく事はもちろん、もうひとつ大切な事は、我々日本人が作り出してきた礼儀作法や考え方など、ちょっとした行為が美しい行為であったり、上品であったり、目に見える物は残しているが、そこにまつわる作法や考え方など、目に見えない文化は殆ど文書にして残されているか、年寄りに聞くかしないと、我々は忘れてしまっています。知らないわけです。そういう物がきちんと継承されていると、それは日本人としてのアイデンティティーになるし、それがバックボーンになる。その伝統があってこそ、西洋文化と対等に渡り合えるのではないかと思いますね。

大量生産、大量消費の時代を経て、日本人は物を大切にしなくなった。使い捨ての時代です。ところが、欧米を見ますと、そういう伝統がきちんと残されている。それは建物だけが残っているわけでは無く、技術も継承されていますし、考え方も残っている。ヨットに関して言えば、昔ながらのウッドボートもちゃんと今でも造られています。それは非常に高価にもなりますが、現代の技術にも負けない良さもあるわけです。良い物を大事にして、長く使う。

経済至上主義から考えますと、それは効率が悪い。ですから排除してきた。でも、その代わりバックボーンをうしないつつあるような気がします。すると、西洋文化には叶わない事になっていきます。こちらに文化が無いのですから。西洋文化と対等にするのは、こちらの日本文化です。西洋文化を取り入れつつも、きちんと背骨は日本文化で創られている。日本人の考え方、日本人が美しいと感じるのは何か、作法など、忘れていた文化を取り戻す時がきている。

昨今の事件を見ると、そんな気がします。文化はただ続いてきただけでは無く、日本人が世界に出る時のバックボーンになる。これなしでは対等に西洋人と渡り合う事はできないと思う次第です。文化無しでは、欲望だけになってしまう。それが昨今の事件に繋がっているのではないかという気がします。日本には武士道というのがあります。例えば、相撲に猫騙しとかありますし、野球では隠し球というのがある。しかし、これは強い者が取る手段であってはならない。弱い者にゆるされる手段です。これも日本人の文化でしょう。こういう事を忘れていくと、何でも勝てば良いという事になる。これは品が無い。

ヨット文化は西洋の文化、でも、日本人は西洋人にはなり得ないので、日本文化を背負ったまま、ヨット文化を楽しむ。あくまで日本スタイルです。日本スタイルのヨットとは何か?ただ、ヨットを使って快楽を得るというスタイルより、もっと深い精神性にあるような気がします。探求にあるような気がします。深く知る事にあるような気がします。でも、合間には馬鹿騒ぎします。日本人の探究心は
そこに面白さを感じるのではないかと思います。理屈の世界だけでは無く、感性を重んじる世界を持っていると思います。理論で乗る。感性で乗る。

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