第九十話 当たり前のセーリング

先日、あるオーナーのヨットに乗せて頂いて、2時間ばかりセーリングしてきました。風もまあまあというところでしたが、あっという間の2時間でした。まるで自転車での散歩のような、気軽にポンと出て、帰ってくる。たったそれだけです。波あたりの感触を楽しみ、スタビリティーを味わい、スピードを楽しむ。そうすると、必ず、シートの引く位置や固定の仕方、ウィンチを回す時のポジション、もう少しこうするとやり易いのだが、と思う事があるもんです。それを解決していくのも面白さのひとつになります。

舵を持ったままメインシートに手が届いてすぐにコントロールができる。これはOK。でも、ジェノアの方となると、特に強風ではウィンチに頼らざるを得ません。もうひとり居ればどおって事無い話なのですが、ひとりではそうは行きません。

シングルハンド仕様のヨットというのは、こういう所を考慮した結果、セルフタッキングジブにして、セールエリアが小さくなった分、メインセールを大きくしたのでしょう。これで走りが変わらないとしたら、それゃあシングルで楽に操船できて、コントロールもし易い。なのに、セルフタッキングジブが少ないのはこれいかに?

多分、セーリングをレース以外でそのまま遊ぶという概念が無かったのかもしれません。キャビンヨットには大勢来るし、レーサーには物足りない。そういう事かもしれません。でも、昨今のクルー不足事情から考えますと、シングルハンド仕様というのはこれからは重宝すると思います。何でもひとりでできなきゃ、これからは自由には遊べません。ひとりで乗る事が無いにしてもです。しかも、ただ乗れるだけでは不十分で、楽しめるぐらいじゃないといけません。そうしたら、完全に自由を得る事ができる。誰にも頼らない。でも、誰でも楽しませてあげる事はできます。

シングルハンド仕様のヨットの共通点は他にもあります。フリーボードが低くて、バラストが重いので、スタビリティーが非常に高い。風圧面積も低い。つまり、シングルセーリングにはこういう要素が重要であるという事だと思います。メインシートトラックは全てコクピットにあるし、全てに手がが届くところにある。舵を持って、全てコントロールできて、高いスタビリティーで、それならさぞセーリングも楽だろうし、それが良く走ってくれるなら、きっと面白いに違いない。それに、セールのバランス、重量バランス等が良いなら、もっと楽に走れる。そんなヨットで帆走してみたら、どんな感じがするでしょう?きっとやみつきになりますね。こんなヨットが今までは無かった。まさしくスポーツカーに例えられる所以です。でも、スピード性能重視かと言うと、そうでも無く、乗り心地の良さ、デッキはドライに、多少スピード性能を犠牲にしてでも、レーサーでは無いので、そういう配慮もある。

つまり、今までクルージング派だった方々が、純粋にセーリングを遊ぶには理想的かと思います。

もうひとつの共通点は幅が狭いという事です。幅が広いと船底はよりフラットになる。すると波に叩き易い。幅が狭いと船底は丸みを帯びる。或いは鋭角になる。波に対してちょっと角度がつくだけでも、ソフトになります。幅が狭いと初期にはヒールする。軽風にはヒールする。でも、風が強くなるとバラストが効き、ある程度以上のヒールからは腰が強い。これもシングルには良いと思います。

今まではこういうヨットはありませんでした。でも、これからは、ひとつのジャンルとして、ひとつの乗り方、楽しみ方として、特にシングルの方には面白いと思います。

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