第七十六話 データから解る事

  
  左の図はポラーダイヤグラムという、ヨット
  の性能を表す表です。こういうデータはクル
  ージング艇の場合はあまり出される事が無
  いのですが、見た事はあると思います。

  このポラーダイヤグラムはセーバースピリッ
  ト36のデータですが、真上0°から風が吹
  いてきている状態で、赤い線に風速が8ノッ
  トの時12ノット、16ノットの時に、どの方角
  に走る時、どのぐらいのスピードが出るかを
  表しています。内側の円がボートスピード3
  ノット、外側に行くに従って、4,5,6と1ノット
  づつ速くなり  ます。円の外の数値が、走る
  角度です。 風速は真の風(TWS)です。

  90度ぐらいまではメインセールとセルフタッ
  キングジブでのデータ、下側の赤い線はメイ
  ンとジェネカーを想定しています。

  この表をじっくり見て下さい。そこから解る事
  は何かを探って下さい。

  

8ノットの風で上り、45度、艇速5.8ノットぐらいでしょうか。風が12ノットになりますと、角度がもう少し上れる。16ノットではもう少し。上りの範囲では90度少し手前の80度近辺が最も艇速が出ています。下りのジェネカーでは8ノットの風では100度あたりで艇速7ノットを少し越え、12ノットの風では110度あたり、16ノットでは125度ぐらいが最も速い。

ヨットはスピードばかりでは無く、角度の問題も遊びます。艇速は速いが、角度が悪いとか、その角度と艇速の丁度効率の最も良い角度がVMGと良い、レーサーなんかはそういう走りを求める。良い角度だが、スピードが遅いとか、スピードは出ているが角度が悪いとか、そうちょうど両方の妥協点みたいなもんでしょう。それがヨットの小さな絵が描いてある点になります。これは縦の0°の真っ直ぐな線から、真横に、直角に線を引き、赤い線のラインに引きます。上りなら、赤い線が最も上にある位置、下側なら最も下になっている位置に重ねて線を引く。その一致した点の角度が最も効率の良い角度であり、その時の艇速が表される。

8ノットの風の時、143度ぐらいでしょうか、この角度が最も効率が良い事になります。16ノットの風では170度ぐらいですね。これから少し上ればスピードは上がるが、角度は悪くなる。そういう事になります。もちろん、レーサーでは常にこれで走っているわけではありませんが。

このポラーダイヤグラムは性能を表します。ただ、クルージング艇が求める乗り心地などは解りません。フィーリングは解りません。でも、遊びの参考にはなるかもしれませんね。

この他には、セールエリアと排水量の関係、セールエリアと水線長の関係、長さと幅、バラスト比などのデータがありますが、いずれにしろフィーリングのデータはありませんので、それらから推測する事になります。でも、まあ、雰囲気で解る事、感じられる事も多いですね。曖昧ですが。

理想的には、使い方を明確にして、その使い方の目的に合うように建造するのが理想ですが、それならカスタム艇になります。10人で乗るか、1人で乗るかによって違うし、レースにしてもどういう海域で乗るかによっても異なる。クルージングでも、世界を回るか、日本一周か、沿岸か、そういう事によっても違うべきです。でも、カスタムなんてのはとんでも無く高価になりますので、プロダクション艇から一番自分に合いそうなヨットを選ぶ事になります。という事はその艇のコンセプトを吟味する事になります。

このヨットはどんなオーナーを想定してデザインされ、建造されているか。コンセプトが合わないと、乗れるでしょうが、乗りにくいという事にもなります。ですから、自分のコンセプトを明確にするのが先決ですが、これが簡単ではありませんね。あれもこれもとなるのが人情です。でも、絞り込めば、絞り込む程、面白くなる。あれも、これもと言えば、あれとこれの両方の中間点の妥協になる。
あれの方に重点を置くと、これの方は充分にはなりませんが、あれの方ではとっても面白い体験ができる。まあ、一般的使い方で言えば、セーリングと主とするか、キャビンを主とするかではないかと思う次第です。

昔は、ヨットは外洋性を持つというのが当たり前だったのではと思います。ですから古いヨットは船体は非常に頑丈だし、重心も低い。しかし、それがだんだんと変化してきます。外洋に行かないヨットの中では、キャビンが少しづつ大きくなっていきます。より快適なキャビンとコクピットが想定されていきます。これが充満してきた所に、今度はデイセーラーが登場した。これは必然ではなかったかと思う次第です。クルー不足の状況を考え合わせると、キャビンヨットに対して、セーリングを楽しみたい方々へのプレゼンテーションです。キャンピングカーで一杯になった時に、スポーツカーはいかがですか、という事です。

つまり、ヨットとは言っても、実際セーリングをどのように考えるかによって、モーターボート的な使い方もあれば、セーリングヨット的使い方もあるという事です。それで、モーターボートにおいいても、釣り以外のボートは、所謂、クルージングボートはやはり稼働率はかなり低くなっています。という事は、キャビンは使いきれないというのが実情なのだろうと思うわけです。それは日本人の国民性かと考えますと、そうでも無い。海外在住の日本人はやはり海外の方々と同じようにキャビンを楽しんでいるようです。という事は日本という国における生活スタイル、マリーナなどの環境、そういう物がキャビン遊びを遠ざけているのかもしれません。でも、当の欧米でもデイセーラーが増えてきたというのは、どのように解釈すべきか?

クルージング派といえども、セーリングから遠く離れてきた。そこからもう一度セーリングに戻る動きではないか、でも、クルー不足には違いないので、クルー無しでも簡単に動かせるヨットという事になってきている。そういう動きが少なからず出てきたという事かと思います。ロングに行く人はロング用のヨット、キャビンを遊ぶ人はキャビンヨット、セーリングを遊びたい人で決まったクルーが居る人はスポーツ系のヨット、決まったクルーが居ない人、或いはシングルハンドの方はデイセーラー。そして、これら全部、沿岸のクルージングぐらいは行けるのです。

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