第七十二話 理想形

今日あるヨットはそれぞれのデザイナーが居て、それを受け入れた造船所が居て、そしてそれをまた受け入れるオーナーがおられる。そういう意味で、それぞれにおいて理想的なヨットを、価格をも含めて生み出しているのかもしれません。レーサーはレーサーとして、キャビンヨットはキャビンヨットとして、それぞれのデザイナーの理想形がそこにある。但し、理想形とは言っても完璧は無いので、多少の妥協点はある。その妥協を含めた理想形という事になるでしょう。

オーナーにとっては、選択の幅が広がるというのは良い事ではあります。しかし、オーナー側にも責任があって、オーナー自身が自分のスタイルを持っていないと、選択できるという事が有利に働かないし、返ってマイナスに働くかもしれません。とは言っても歴史の浅い日本、昔から、子供の頃からヨットで遊んでいたなら、自分のスタイルも自然に出来上がってきたのでしょうが、そういうわけにもいきませんので、他の分野における経験、自分の性格から推察するしかない。

理想は全てを経験する事にあると思います。大きなヨット、小さなヨット、レーサーからクルージング艇まで、シングルもチームで乗るセーリングも、キャビンも別荘もありとあらゆる考えられる全て、想像できる全てです。全てを体験する事によってのみヨットというものが解るのかもしれません。そこに一切の判断は無く、経験のみがある。それが理想かもしれません。

しかし、そんな事は無理な話ですから、それ無しで間違いの無い、失敗の無い選択をしようと試みる。しかしながら、失敗とは何か、成功とは何かと考えれば、簡単な話、自分のスタイルに合うか合わないか、合えば成功、あわなければ失敗です。では自分のスタイルが解らなければ、成功も失敗も解らない。という事は選びようが無いという事になってしまいます。

簡単な話、成功するか失敗するか誰にも解らないのです。心配しても仕方が無いわけです。それじゃあ選びようが無いという事になりますが、敢えて申し上げれば、自分の直感に頼るしか無い。理屈は兎も角魅かれる何かを感じたとか、見た目の美しさに魅かれたとか、何でも良い。ただ、理屈で選ぶよりも、今の時点では正解ではないかと思います。理屈で選ぶ、みんなと同じヨットにする、こういう事は自分を何とか納得させようという材料にはなるでしょうが、成功と失敗の比率は半々です。でも、感情、フィーリングで選んだヨットは、多分確立的には成功の確率が少し高くなると思います。少なくとも感情はそれを好んだわけですから。でも、考え出すと、それで本当に良いのか?と思い直すのが常です。何故か?これまで感情で選んだ事が無いからです。すべて理屈、理論、等々、頭脳で選んできたからです。ですから頭脳無しには心配でたまらない。

気持ちは良くわかります。でも、少なくとも感情は好んだという事実は自分自身が1歩でもそっちよりである事の証拠でしょう。遊びなんですから、遊びぐらい、できれば素直に自分の感情に従ってみてはいかがでしょうか?できれば。簡単では無いのですが。遊びですから。遊びは感情のスポーツですから。理論のとは違いますから。唯一、ヨットに仕事をさせよう、会社の接待に使うとか、そういう場合は違うでしょうけれども。

それに従ったからと言って、うまくいくとは限りません。本当に自分の中から出た感情であるなら、多分成功するでしょうが、昔から自分の感情を抑えてきた場合、自分でも気が付かない事があります。それがストレスとして長い間たまってきた。ですから、いつも、自分が何を感じているか、それを意識する事が必要かもしれません。そして想像力のある方は、自分が何を好むのかが明確です。何を選ぶにしろ、うまくいくか、いかないかは解らない。その他大勢と歩調を合わせても、その確立は50:50です。そう思って、感で選ぶというのも悪く無い選択かと思います。

キャビンヨットを選ぶのは成功の確率が高いでしょうか?デイセーラーを選ぶと失敗の確立が高いのでしょうか?確率はみんな50:50です。本当はみんなどうしたら良いか知っているのではないか?心の奥底では解っているのではないかと思います。ただ、外野が煩すぎるので、解りにくくなってしまっただけではないか?だから、いつも自分の心のトキメキを見張っている必要があるのではないかと思います。

失敗したって、たかがヨットです。失敗、自分には合わないと感じたら売れば良い。そして合うヨット変えれば良い。仕事や家などは簡単じゃないかもしれませんが、それに比べたらまだ良い。そう思わないと選択はできません。所詮、何を選んでも絶対の保証はどこにも無いのですから。そうなったら、ヨット自体を諦める事になります。ヨットをしようと思った瞬間、何か感情をゆすぶる何かがあったはずです。それがヒントではないでしょうか?遊びはいつも感情に従う。

よくこんな話を聞きます。いろいろ検討して、考えて、結局最初のヨットが一番良かったような気がする。最初のヨットというのは、大抵は直感が選んでいる事が多いからではないか、それは自分の感情からストレートに出てきたからではないかと思う次第です。こういう選択ができるのは、遊びだからです。遊びぐらい自分に素直にストレートに遊ぶのが良いと思います。

私はデイセーラーを推進していますから、説得します。しかし、本当は説得なんかできない。相手の心に響く物があれば、自然に相手が選ぶ。それは説得では無く、自主的な選択です。元々心にあったものです。心に無い場合はどうあがいてもどうにもならない。ただ、心に響くかどうか、鐘を叩いているだけですね。これからもセーリングという鐘だけはたたき続けたいと思います。

ヨットを購入しようという方は、世の中である程度成功を収めた方でしょう。何故成功したかと言えば、他人と同じでは無かったからだと思います。では、ヨット選びもそうしましょう。それが成功の秘訣。他人と同じにしない事が成功の秘訣、成功を収めた方は既に他人と同じでは無いのですから。成功の影には失敗もありますが、無難よりは成功を選ぶ方々ばかりではないでしょうか。

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