第六十三話 圧倒的な違い

我々がマリーナで見るヨットといわゆるデイセーラーとの圧倒意的な違いとは何か?と言えば、それは安定性の高さの違いにある。デイセーラーにおいて、キールバラスト重量の占める割合は40%前後或いは、それ以上ですが、40%ぐらいなら外洋艇なんかにも見られます。しかし、水線から上の構造物は全く違い、非常に低く造られている。例えば、デッキの高さは水面に近いし、それにキャビンにしてもモーリスのM36やアレリオン38においては正直なところキャビン内で真っ直ぐ立つ事ができない。それにプラス、カーボンマストを採用している。つまり上部側をできるだけ軽くしている。

この事によってセーリングにおける安定性は全く違ったものになります。何故ここまでやるか?デイセーラーと銘打った事によって、その最も面白いセーリングにおいて、圧倒的な安定性とそれから発生する面白さ、安全性を造りだす為であります。その事によって、オーナーはセーリング中のセーリングという快感を存分に味わう事ができます。その為に、キャビンという構造物を思い切って犠牲にした。そうせざるを得なかったと言えます。それで良いと判断したデザイナーに敬服します。

どんなヨットでもセーリングはできます。でも、セーリング自体を堪能しようと思った時、それはどこかに行くセーリングでは無く、セーリングのフィーリングを遊ぶ行為ですから、いかなるフィーリングを得られるかが重要なわけです。ただ、単に速いとかでは無く、フィーリングです。キャビンを犠牲にしてまで味わうフィーリングとは何か?そこにデイセーラーの意義がある。

レーサーは速さであり、フィーリングでは無い。でも、デイセーラーはドライブ感や快を得る事にその目的があり、そのフィーリングは他のヨットとは一線を画す。そんなヨットが誕生したわけです。
それも簡単に操作ができるという事です。そういうジャンルが出来た事に感謝したいと思います。

誰もがデイセーラーを好むわけではありませんが、しかし、セーリングというひとつのジャンルを考えた時、もっと面白いセーリングがしたいと望まれる方々には、デイセーラーが相応しい。圧倒的スタビリティーの高さから繰り広げられるセーリングは圧倒的な面白さを内包している。それでいて、非常に硬い船体と剛性の高さはセーリングのフィーリングをさらに高めてくれます。さらに、船体重量が重くなっていない。つまり、軽風時にも良く走ってくれて、尚且つスタビリティーも高いので強風にも強い。そういう走りができるという事です。

しかし、得る物があれば、差し出す物もあります。それがキャビンとなったわけです。昨今の広いキャビンに比べ、デイセーラーのそれは狭い。このセーリングを取るか、或いは、広いキャビンを取るか、そこが分かれ目ですが、これは割り切らねばなりません。デイセーラーを取る事だけが割り切りが必要なのでは無く、広いキャビンを取る事は、そういうセーリングを諦めるという事ですから、やっぱり割り切りが必要になる。今までは、広いキャビンが当たり前と思っていましたから、セーリングを取るのにその割り切った気持ちが必要とされてきました。しかし、逆に考えれば、セーリングの方を諦めるという割り切り方も必要な事です。

残念ながらと言いますか、こういうデイセーラーのヨットは一般に比べて高価です。何故か?セーリングを遊ぶには、それなりの船体が必要になります。硬い船体、剛性の高さ、軽いけれども強くなければならない。そうしないと波や風に負けてしまうからです。そこにコストがかかっています。スポーツカーは高馬力エンジンだけでは走れないのと同じです。それに対するボディー剛性やブレーキ、足回りが伴わないと走れない。走っても性能が出せない。そこで、デイセーラーは他と比較しますと排水量が少ない、でも非常に強い船体をしています。

ですから、セーリングを堪能したいと考えた時、デイセーラーは最も面白い選択ではないかと思います。しかしながら、そうは言ってもどうしてもキャビンがもう少しほしいと言われる方が多いのは承知しています。それで次点候補という意味で、スポーツ系のヨットをお奨めしています。スポーツ系とは言いましても、これもいろいろありますので、セーリングを堪能するという意味においてはしっかりした船体が必要になりますので、構造的のしっかり造られたヨットであって、セーリングをないがしろにしないスポーツ系ヨット、使い方としては、やはりデイセーリングを日常の主とし、たまにイベント的にちょっと遠出されたりする方々、遠出という意味でキャビンがほしくなる。

次へ          目次へ