第六話 昔と今

シングルハンドという考え方は今に始まったわけでもなく、昔からありました。でも、どちらかと言うとクルーズ、旅を主体に考えたのではないかと思います。今でもそれはありますが、最近出てきたシングルハンドはスポーツとしての意味合いが強くなっています。旅よりもセーリング重視です。ですから、ヨットも違うし艤装も違う。当たり前ですが。

そしてデイセーリングという考え方も昔からありました。ただ、これも昔と違うのは、昔は小さなヨットだからデイセーリング、今は大きなヨットでもデイセーリングというのがあります。

昔からあったこのふたつの考え方をひとつにまとめ、シングルハンドのデイセーリングとして合体させた考え方が、今のデイセーラーの基本コンセプトになっています。この考え方が出てきた背景には、クルー不足、或いはクルー維持が大変とか、メインテナンスの煩わしさ、オーナーが忙しくて、長期に遊べないとか、また、ロングは既に楽しんできたので、もう近場で良いとか、そういう方々の事情がありました。そして、近場をセーリングするなら、セーリングそのものをスポーツカー的に走るのを楽しむ、セーリングの妙を楽しむという具合に発展していき、さらにいつでもすぐに出れる為にはシングルでできる方が良いという具合です。

その考え方が欧米では強く支持されています。一方ででっかいヨットも建造され、発展しスーパーヨットに至り、一方で、こういうデイセーラーに向かう。従来のキャビンヨットでは無いし、ロングを旅するヨットでも無い。新しいコンセプトと言えます。そして、これらは小型版のスーパーヨットという位置づけで、他のヨットとは区別されています。とうとう、クルージング派がセーリングを楽しむ時代になったと言えます。レーサーのような苦労はしなくても、簡単な操作で快走を楽しめる。レーサーのレーティングも無い。これらのヨットは、一般のヨットがセーリングする以上に簡単で、より快走が楽に楽しめるように造られています。

セーリングを主に遊ぶ派、キャビンを楽しむ派、旅を楽しむ派と三つの流れができました。欧米人は他人がどうかとかはあまり気にしませんから、自分が気に入ってスタイルが合うとなれば支持します。ですから、急速にデイセーラーが伸びてきました。日本ではキャビンや旅との割り切りがまだ難しく、とんとん拍子に増えるという事はありませんが、考えてみれば日本人は欧米人以上に忙しいし、キャビンに住み込む事は無いし、そういうスタイルとしてはデイセーラーは日本に合うと思います。旅にしても、近場のウィークエンドクルージング程度なら問題無い。まあ、もっと行けますが、欧米人のように、部屋が区切られ、オーナー用、ゲスト用と別々にトイレがあったり、そういう事を日本人は要求しませんから、本当はもっと使えます。

ただ、これらのヨットはかなり高価です。素材も違うし、工法も違う、かなりレベルの高いヨットばかりです。そこが日本に一挙に広がらない理由でもありますが、建造コストをどこにかけるか、これから20年使える事を目標に作るか、もっと長く、50年でも100年でも持つように造るかは全然違う。20年も乗らないにしても、この二つの今の乗り味は全く異なります。

デイセーラーが強く支持されていると言っても、これが主流になる事は無いでしょう。相変わらず、キャビンが主流だと思います。欧米人の一般の多くの方々はキャビンをファミリーで遊ぶのが主ですから。という事はマイナーな存在として、大量生産される事も無い。スーパーヨットが大量生産されないのと同じです。これは両極のスーパーヨットです。

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