第十八話 セーリングの不思議

理屈では理解できるものの、セールを張って、思い通りの方向へ走る。何の動力も使わずに、ただセールの角度さえ、それも厳密にでは無く、ある程度の角度に設定するだけで、数トンにも及ぶ重量が走り出します。考えてみれば、これは驚異的な事かと思います。逆に、風の力は相当なもので、その力を受けるセール、それを支えるマスト、リギン、そして船体、なる程、重量はおおいに関係ありますし、船底の汚れなんかはとんでも無い事ですし、船型もおおいに関係してくる。何しろ、水は空気に比べて800倍の影響力がある。実は、空気にしても夏の温度の高い空気と冬の冷たい空気では異なる。もちろん、夏の空気の方が軽いし、冷たい空気の方が影響力は強い。実にセーリングは科学して遊んでます。

風に対して角度を決めて、セールのカーブを調整する。基本的にはたったこれだけなのですが、それがとっても難しい。それはより良くを考えれば難しいですが、考えなければ簡単な事です。セーリングをどこまで遊ぶかによって難しさは違ってきます。セーリングは実に簡単、同時にとっても難しい。ここがヨットの寛大な所で、乗り手に任せてあります。

より良くを求めた場合は、いろんな操作が必要になります。そうした場合、数百マイルを走る航程では、そこまではできないかもしれません。数百マイルの航程ではむしろ、走っている海域に風があるかないかの方が重要な気がします。それが数マイル圏内であれば、もちろん風のあるなしは重要ですが、セールの操作はもっと重要になる。つまり、細かいセール操作を遊ぶには、数マイル圏内の方が向いてます。ヨットはいろんな操作を面倒くさいと思うか、面白いと思うかによって、乗り方が違ってきます。

人は易きに流れると言いますので、あまり面倒くさい事はしたくありません。でも、科学を理解して、やるとやる分反応が感じられます。レーサーが行う全てはしないにしても、少しでもするという興味があれば、ヨットはもっと面白くなる。セーリングが面白いか、面白く無いかは、乗り手側の責任という事で、ヨットに責任はありませんね。乗り手の意識の問題です。

キャビン重視の方でも、セールがバタバタしていて、そのままにしておく人は居ないでしょう。シートを引いたり、出したりして調整します。もう一歩踏み込みますと、リボンがきれいに流れるようにするにはどうしたら良いかを考えます。ここが分岐点かと思いますが、それをしてもしなくてもヨットは走る。ただ、走り方が違う。それを求めるか否か?

どちらかに限定しなくても、時と場合によって求めたり、求めなかったりの両方の使い分けをしても良いと思います。両方を楽しむには、キャビンを楽しむのには新たな知識が必要ではありませんが、セーリングはそれが必要になりますので、セーリングを学んでおく必要があると思います。つまり、全てのヨットマンが、キャビンもセーリングも遊んだ方が遊びの幅が広がりますので、TPOで使い分けるとして、セーリング知識があった方が両方遊べるという事になりますから、是非、セーリングをして頂きたいと思う次第です。

ヨットというのは無用の長物ですから、遊ぶためにありますから、いろんな遊びをした方が、いろんんな場面で遊ぶ事ができます。ヨットを何かの役に立たせるにはどうしたら良いか?そんな事は考えなくても良いわけで、いかにしたら、もっと面白さを引き出せるかが重要で、その面白さは実は、ヨットでは無く、乗り手側次第という事になります。

ですから、ヨットは簡単、難しい、退屈、面白い、何にでもなる事ができる。そして求めた時、自分の求めるレベルにヨットがついていけない時があります。或いはその逆もあるでしょう。でも、そこにそれが解る自分というのは、相当なもんかと思いますね。

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