第百話 データを取る

バックステーアジャスターを引いてみましょう。桟橋に付けたままでも良い。それでセールがどんな風に変化をするかを観察してみましょう。どれだけ引いたら、どのくらに変化するか?バックステーを引いて行くと、セールはフラットになっていく。風が強くなったら、セールをフラットにする。それではどれだけ変化していくか、どこまで引いたらもうそれ以上にはならないか、それを確認してみるのも悪く無い。実際の時には、それが明確に解っているいると、役に立つ。そういうデータを持つ事は、これから先のセーリングにおおいに役立つでしょう。

ヨットは一艇づつ違いますから、自分でデータを取る。そのデータが積み重なったら、より良く知る事になります。最初はそうやって遊んでも良いじゃないかと思います。何ノットの風で、何度で、何ノットのスピードが出る。それで、セールをいろいろ操作してみる。どのような状況の時に、どういう設定が最も適しているかを観察する。すると段々、こうするとこうなる。こういう時にはこうなる。いろんな事が解ってくると思います。それも遊びとしては悪く無い。

そういうデータ取りなんかしていますと、良く観察するようになるし、そうなると簡単に集中するようになる。そんな面倒くさそうな事も、意外とやってみると面白いかもしれません。徐々に、自分のヨットがどんなヨットで、どんな性格で、どんな癖があるかも解ってくるでしょう。知るという事は結構面白いもんです。右と左で違っていたり。案外、船体が左右対称になっていないのがある。バックステーとどんどん引いても、途中からセールがフラットになていかない時、案外、船体が曲がり始めてマストが曲がって行かないというのもある。どんなであっても、それを知ると、解ると結構臨機応変に対応できる。解るというのが、安心感を生むし、自信も生まれる。

これ以上ヒールさせると効率が悪いとか、それらは客観的データを必要とする。それには計器を使う。そういう意味で風向風速計とスピード計、それに今ではGPSで対地速度も解るので、それらをおおいに使って、観察してみてはいかがでしょうか。特に初心者の方にはお奨めです。データ取りをしばらく続けていきますと、そういう癖がつく。観察するという癖です。自分でポラーダイヤグラムを作るまでいくと完璧ですね。まあ、そこまでとは言いませんが。兎に角、自分のヨットを知るという遊びもやってみたらどうでしょうか。結構、面白いんじゃないかと思います。

微妙な操作を、何もそこまでしなくてもとも言えますし、その微妙さを楽しむ事もできます。人の感覚は案外鋭いものがありますが、相対的でもありますので、やはり計器に頼るのが一番です。そこにまた、遊びのテーマができます。それもいつもそうしなければならないという、しばりは無いので、時に応じて遊ぶというつもりぐらいでも良いと思いますが、まあ、これから長いヨットライフをおくるにあたっては、そういうデータも単なる数値としてでは無く、実感と合わせて、もっておくといろいろ役に立つかもしれません。

ジェノアだけだとどうなるか、メインだけだとどうなのか?ふたつ合わせてどうなのか?これらを実践で体感していきますと、かなり詳しくなるでしょうね。データがかなり集まる頃には、もはやデータは必要ないかもしれません。でも、その鍛えられた感覚はデータ取りをしてきたからでしょう。これからがもっと面白くなるんじゃないかと思いますね。もちろん、完璧にしようなんて思わない。遊びの範囲で、これも面白いからやる。完璧にならないでも、観察するという見方が、鍛えられる事は間違いない。それが感覚をも鋭くしていくのではないかと思います。

セーリングを遊ぶと言っても、いろいろあるでしょうが、そのひとつのアプローチかと思います。実験的セーリングです。もちろん、何でもそうですが、しなければならない事は何も無い。遊びの可能性のひとつです。もちろん、ぼ〜っとセーリングする時もあって良い。おしゃべりに興じるのも良い。
音楽を流しながらでも良い。楽しそうだと思う事は何でもやってみると良いと思います。何でも良いのですが、セーリングをいかに楽しむか、いかに楽しく演出するか、そこが最も重要かと思います。
そのひとつがこの実験的セーリングです。目的は自分のヨットを知る事と、自分の力量を知る事。知れば、次のステップへも進めます。否、知る事で既に進んでいます。

いくら、宴会の演出がうまくても、それだけではヨットを味わえない。逆に、セーリングの演出がうまく行けば、その他の事もうまくいくと思います。何しろ、主が充実しているなら、従はそれだけで余裕で楽しめると思うのですが。とにかく、自分なりの遊びを考えて、実行してみて下さい。どんなに下らない事でも良い。所詮遊びですから。

もちろん、最後はアフターセーリングのうまいコーヒーで、疲れと緊張感をほぐして帰ります。

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