第二十話 ヨットの日 

仕事を現役でしている頃、遊ぶと言っても息抜き程度しかできないかもしれません。毎週末にマリーナに行けるかと言うと、なかなかそうも行かなくて、週末に天候が悪くて、寒すぎて、暑すぎて、なかなかそういう気分にもなれない事もあります。家族の用事で出かけられない事もある。そんなこんなで、現役で仕事をしている人が、存分にヨットを遊ぶというのはなかなか難しい。

だから、とりあえず、毎週末の土曜日はヨットの日にしてしまおう。お父さんは土曜日にはヨットに行く。そう家族にも伝えます。天候が悪くても、とりあえずマリーナには行く。セーリングができないなら、ヨットを磨いても良い、エンジンのオイル交換ぐらいは自分でもできる。雨が降るなら、読書でもしてしまう。おいしいコーヒーをいれて、読書を楽しもう。この日はヨットの日。

マリーナが近い人にとっては、午前中で帰ってこれるかもしれない。遠い方は午後から2,3時間をセーリングにあてて、帰りにどこかに寄って帰る事もあるでしょう。今日のセーリングを反復して感覚を繰り返す事もあるでしょう。うまく行ったセーリングなら、良い余韻が残る。うまく行かなかったセーリングなら、今度はこうしよう、ああしようと次のセーリングが頭に残る。

特に、初心者の方には、便利な計器をお奨めしたい。風向風速計とスピード計です。このふたつで、風向と風速を客観的な数値として置き換え、そのうち感覚で解るようになる。でもそまでは、風速5mがどの程度なのか、そしてそのセーリングはどんな感覚なのか、どうしたらどの程度のスピードが出たのか、感覚を客観的な数値として記憶して、そのうち、感覚的にもどの程度なのかが養われていく。スピードを求めなくても、スピードの数値は、上がれば上がる程、スムースさを表す。同じ風速で、同じ方向に走って、何が違ってスピードが違うのか、船底が汚れているかもしれないし、セールを出す角度があっていないのかもしれない。こんな事を繰り返す事によって、感覚で把握できるようになる。数値は目安になる。そうやって感覚が磨かれれば、自然に対応ができるようになるでしょう。

クルージング派の方はスピードを求めないと言いますが、スピードは出れば、それだけスムース、抵抗が少ない事を意味します。それはヨットに無理をさせない事をも意味し、ヨット自体にとっても無理の無い走りをしている。スピードを求めて、大きなセールや軽いヨットという意味では無く、自分のヨットをより把握しやすくする為の道具としては、これらのメリットは大きいと思います。以前は、同じ状況で、6ノット出たとか、今日ははもっと速いとか、乗っていけば、記録しなくても、意識して走っていれば自然に記憶にも残ります。タック後もスピードがガクンと落ちたとか、今日は結構スムースだったとか、いろいろな状況で役にたつ。スピードを求めているのではなく、スムースさを求め、その目安としてスピード計を使う。

少ないセーリング回数で、効率良くヨットを把握していく。遊びにそんな面倒な事はしたくないと思う方もおられるでしょう。でも、これが案外、自分のヨットのいろんな事が解ってくると、面白くなるもんです。登り角度、この風でどの程度のスピードが出るか、波がある時、無い時、いろんな状況で、計器類を目安に乗り続けると、いろんな事が客観的に把握できる。それがヨットを知る事につながり、知ると面白くなってきます。好奇心も生まれてくる。どのくらいまでの風ならフルセールで走れるか、効率よくです。

ただ、漫然と、ぼ〜っと走る時もあって良いと思います。でも、基本はこうやって意識して走り続けると、短期間に面白さはどんどん膨らんできて、自分の感覚も磨かれて、それが人間の好奇心をくすぐり、一層の面白さを感じるようになる。そうやって磨かれた感性は、他のヨットに乗った時に、その違いがすぐに解る。

ヨットは腕の遊びでは無く、感覚の遊び、仕事が忙しい方は、初心者の方は、まずはその感覚を磨いていくのも楽しいセーリングになると思います。それにはヨットの日を作りましょう。家族にそう宣言しましょう。

60歳から始めるヨットでも構いません。同じように最初は計器を使って、走りましょう。ヨットの日はもっと多く設定できますね。こういう感覚遊びをしておく事は、それから先、どんなヨット遊びをするにしてもきっと役に立つ。風を肌で感じ、動きを感覚的に感じ、そういう事はいろんな状況に対応しやすくなる。また、こういう感覚遊びは、気持ちがリフレッシュします。

知的好奇心を満足させ、気持ちもリフレッシュ、ヨットは大人の最高の遊びだと思いますね。疲れた心を癒してくれます。まずはヨットの日を作りましょう。 

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