第十七話 ちょっとひと息

生命は海で生まれ、長い年月をかけて陸に上がり進化してきたと言われます。ですから、元々、海は全ての生物の故郷のような物、それが遺伝子に組み込まれているとしたら、海を嫌いな人はあまり居ないでしょう。日本人にとって海は身近であり、親しみはあります。でも、近くにあって遠い存在でもある。海に住む事はできないし、海を旅する事は未知の世界、それだけに夢が広がります。

セーリングをスポーツした後、ちょっとひと息ついて、穏やかにセーリングする時もなかなか良いもんです。ゆったりした気分になれます。それは車をドライブする時では味わえないし、海ならではの
良さかもしれません。こういう時はヨットが速かろうが、遅かろうが、全く関係ありませんね。たまには漂うようにセーリングを味わう。そういう時もありですね。

ぎりぎりの上りとか、セールシェイプとか、そんな事はあまり気にせず、ゆったりとした気分で、ゆったりと走る。それだけでも、気分は癒されます。それは多分、フィールドが海だからでしょうし、ヨットが自然の風まかせだから良いのかもしれません。これはこれで最高の気分になれますね。
緊張感も大切ですが、時にこういう乗り方も混ぜてやると、全体のセーリングが潤いますね。静と動の静の方でしょうか、この二つのコンビネーションはふたつでひとつ。切り離せないものです。神経を集中させて走る時、神経は敏感になり、わずかな動きも感知できる。そういう時も必要ですし、これはエキサイティングな走り。そして、時には、緊張感を解き、ゆったりとぼ〜っと走る。この変化はトータルで見ると非常に全体として面白さ、楽しさ、静けさ、寛ぎ、そういういろんな感覚が味わえて、これもたまには良いもんです。人は緊張感だけではもたないし、緩和だけでは退屈になりますから、これらをうまく混ぜ合わせたセーリングをすると、もっと深い面白さが味わえるのではないかと思うのです。1回のセーリング中にも、混ぜ合わせたら良いし、年間のセーリングでも混ぜ合わせて、ヨットをトータルで楽しむのはとっても良い事かと思います。

季節は秋、穏やかな天候の時、風は少しあって、暑くも無く、寒くも無い、そんな時、ふらっとマリーナに来ますと、そういう絶好の時がありますね。今、出して、ふら〜っとセーリングをしてくる。そういう時は命が蘇ります。ヨットというのは、本当にいろんな感情を味合わせてくれます。是非、いろいろ試して頂きたいと思います。ひとりの時、それも天候の具合や自分の気分の違いなどによっても
使い方は変わる。きっちり走る時もあれば、ゆったりの時もあります。それに誰か一緒の時、ゲストが居る時、それが誰なのかによっても違う。そういう組み合わせを考えると実に様々なセーリングになるのではないでしょうか。どの乗り方が正解とか間違いというのは、本当は無いわけで、自分が乗りたいと思った時に乗れるのが良い。

以前、そういう乗り方でしばらく過ごしていた事があります。その日によって、良い風の時は真剣に走りましたし、そういう工夫もしてきました。また、ある時、風があまり無い時はのんびり、ゆったりです。気分が乗っている時は、結構な強風でも出たり、いろいろなケースがありました。ちょっと遠出した事もありますし、お祭りレースに出た事もあります。みんな、それぞれの乗り方でメリハリがあって面白かったです。楽しかった以上に面白さを感じる事ができましたので、今度はどうしようとか、今度はスピンをあげてみようとか、セールシェイプについて学んだ事を試してみようとか、或いは、もうひとつ先の島まで回ってこようとか、次に乗るのが楽しみでした。もちろん、ヨットに泊まったりもしましたし、宴会もしました、焼き肉パーティーしたり、ちょっと凝ったカレーを造ってみたり、使い方はバラエティーに富んでいたと思います。でも、全ては、セーリングを真剣に走って、その快感を得ていたからではないか、それが核として、中央にドンとあったからではないかと思います。
そして、もうひとつ、忘れられない出来事は、セーリングの帰り、もう夕方で陽が沈みかけの頃でしたが、ふっと見上げたその夕陽の何とも言い表せない美しさに、無心で見とれていた事があります。それが何秒だったのか、何十秒か、解りませんが、ああいう経験はしたことが無かった。これも、
今から思えば、セーリングに夢中になっていたからではないかと思います。ですから、是非、多くの方々に夢中になってセーリングしてもらいたいし、あの感覚を味わってもらいたいと思います。そうしましたら、ヨットは楽しくて、面白くて、時に辛くて、実に良い。

求めている事は、究極的には、セールがどうこうとか、上りがどうとか、そういうものでは無いかもしれません。でも、それらを夢中にやる事によってのみ、感動したりするような事が起こるのではないかと思います。夢中に、真剣にやってますといろんな事が起こります。それをひとつひとつ味わっていきながら、どこかの絶妙なタイミングで、何とも言えない感動が沸き起こる。でも、これも息抜きが必要で、たまにはゆったりのセーリングをします。これも全ての中のひとつで、必要な事かと思います。

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