第四十八話 シェイクダウン

新艇ヨットが進水した場合、これから1年ぐらいかけてシェイクダウンをしなければなりません。それは新艇だからと言って、ヨットは造船所から出たばかり、完璧ではありません。ですから、最初の年にこそ、どんどん乗って、いろんな不具合を出して、それを補修、調整して、はじめてそのヨットは完成したと言えます。ですから、進水したばかりではまだ未完成です。

造船所では建造を終了しても、実際に走らせてテストしている事はありません。大きなプールに浮かべたり、天井からシャワーを浴びせたり程度で、実際に海につけるような事はしません。仮に、テスト走行したとしても、1回や2回走ったからといって、全ての問題が出るわけではありません。荒天時に走って出たとか、何回かの走行中に出たとか、そういう事になります。ですから、1年間の保証期間があり、その間に、できるだけ使って、できるだけ問題点を出してしまう事は重要なプロセスです。それで、欧米では、このシェイクダウンを完了した1年ぐらいのヨットは、新艇よりも高い値段がつく事があります。これを終えて、はじめて完成したと言えます。

日本では多くが非常におとなしい使い方をされますので、シェークダウンが殆どなされていないという事も少なく無い。最初の1年はトラブルを出す事が目的です。ですから、乗るたびにトラブルが出たら、うんざりするかもしれませんが、それは今後長く乗るにあたって、実は悪い事では無いんです。ですから、気を落とさずに、嫌にならないで頂きたい。

実は、横浜に行ってきたのもトラブルの処理の為です。このオーナーは実に良く乗られ、かなり多くのトラブルが発生してきました。確かに、トラブルは気持ちの良い物ではありませんが、でも、このオーナーは一般の方とは違い、実に前向きに対応され、ひとつひとつのトラブルで非常に学んだと言われました。これには私も救われましたが、実際、こういうポジティブな態度は非常に重要で、全てのヨットはどんどん乗ればトラブルが必ず発生します。1年目はそれを出す期間、シェイクダウンの期間なのですから、トラブルが出るという事はそれだけ完成に近づいていると言えます。トラブルが出無いのは乗らないからです。

トラブルは装備が多ければ多い程出ます。当たり前です。激しい波の中を走って出る事もあります。ボルトの締めがあまかったり、電気配線の接続があまかったり、そういうちょっとしたトラブルを発見する期間でもあります。どうか、そういう目で最初の1年目を見ていただきたいと思います。我々業者はできるだけそういうトラブルが出無いように事前チェックしますが、これも完全とは言えません。1回や2回の試走では出ない事も多いです。

という事は進水して、いきなりロングに出るという事は薦められない事です。シェイクダウンをして、トラブルを出し尽くしてから出るべきです。

最後にもう一度言います。全てのヨットはトラブルが発生します。ですから、トラブルを最初に出すという事がシェイクダウンの期間ですから、トラブルを嫌にならずに、是非、積極的に受け止めてください。ヨットは99%は造船所が造ります。後の1%はオーナーが完成させると言っても良いかもしれません。1%はわずかかもしれませんが、仕上げの大事な部分だと思います。

次へ      目次へ