第三十二話 遊ぶのも楽じゃない

本当に遊んで、楽しもうと思うと楽じゃない。そんな言葉を、先日お会いした方が言われてました。楽じゃないというのは、嫌な意味ではありません。面白くしようと思ったら、それなりの何か行動を起こさなければ面白くならないという意味で、何か面白い物が来るのを待っていても、何も起こらないし、どうしたら面白くなるかを自分で考えて、行動していくしか、面白い物にでくわす方法は無い。
そういう意味で楽じゃない。楽という言葉には、しんどい事はしないというニュアンスですが、面白いという為には何かをしなければなりません。するという行為はしんどい場合もありますが、それをしないと面白くはならない。ヨットは出航しなければセーリングできないし、セールは上げなければ走れない、走れば良い時ばかりじゃない。でも、そんな事をする事によってのみ、セーリングの面白味が味わえる。遊ぶのも楽じゃないですね。でも、やると面白いし、やった人だけが楽しめる。

今、必要な事は気持ちの持ちよう、意識の変化だと思います。ヨット技術については、何とでもなりますが、その前にそういう気持ちにならないと遊べません。面白くする為に何でもやってみようと思うか、思わないかです。例え、全くの未経験者であっても、面白くしようと行動されると、あっという間に技術は覚えてしまうと思います。

多くの方々が夢を持ってヨットを購入され、最初は家族を含めて多くの仲間が寄り集まります。しかし、それも最初だけで、2年目ぐらいから、だんだんと珍しさも失せてしまいます。本当のヨット運営はこれから始まります。ここから先が面白いかどうか、それが運命の分かれ道なのです。ものめずらしさが無くなった時、それが日常になった時、ヨットをどう運営したら面白い物になるか、一生遊べるか、それができるかどうかにかかってます。進水の最初の年は単なるイベントに過ぎません。
新築の家なら、新築祝いが過ぎたらそこに住むわけですから、事は簡単です。車を買ったら、日常に乗れるから簡単です。ヨットは非日常ですから、だからこそ面白いんですが、日常にどれだけ面白さを散りばめられるか、それは楽な事では無い、でも、それが面白い事になる。家も車も面白いという次元で使ってるわけじゃないですが、必要なものですから使う。でも、ヨットは面白いという次元にならないと使えません。必要な物では無いからです。でも、だからこそ、面白くなるとも言えます。

遠くを夢見た方も、日常はどうするかです。日常に乗れないでは遠くへ行く事もできなくなります。例外として、ある方、出ると半年ぐらいは帰ってこなかった。年間に半分ぐらいは、メンテナンスしたり、次の準備したりで、日常セーリングされる事は殆ど無かった。でも、このオーナーはロングクルージング一辺倒で、出ると長期間帰ってこなかった。そういう方もおられます。でも、かつてはデイセーリングでヨット練習し、学び、仕事引退してから、こういうパターンでした。これもひとつの面白演出だと思います。37フィートのロングキールのヨットでした。確かに、日常的には出し入れは辛いものがあります。でも、ロングに出ると頼もしい。これもありでしょう。

例え、夢がロングだとしても、今できるならそれで良い。でも、将来なら、今は仕事現役でロングに行けないなら、今できる事、デイセーリングを遊ぶべきかと思います。ウィークエンドセーリングを遊び学ぶべきと思います。そうでないと、ロングにはいけるようにはならない。デイセーリングとて馬鹿にしたものではありません。ナビゲーションという要素以外は全てあります。学ぶ事は多いと思います。そして、このデイセーリングを単なる楽しいという次元を超えて、面白いという次元にまで持って行こうとしますと、楽では無い。楽しい次元では、天候の良い日だけを選んで、誰か手伝ってくれる人の都合も合わせて、乗る。楽しい一日がそこにはあるでしょう。でも、そんな日は少ないですし、そうでない日の方が多い。仮に、毎日良い条件が揃ったとしたら、楽ですが、面白く無いし、それもそのうち飽きてくる。ですから、面白くしようと思ったら、多少、面倒くさい事をしなければなりません。進んで面倒な事をしようと思った時から、面白いが始まると思います。そんな時は面倒くさいと思えた事が面白いに変わってます。遊ぶのも楽じゃない。けれども面白いのです。

意識を変えれば、世の中はぱっと変わる。ある携帯電話のコマーシャルフレーズです。

日常と言っても、毎日乗れるわけでは無いでしょうが、その乗れる機会を多く持つ事と、それがいかに面白いものに演出できるか、それは全て意識の持ちようかと思います。今できる最高のセーリングはどうしたら良いか、それを求めるのが良いと思います。面白いと思います。その為にはどうしたら良いか?どんなヨットか、クルーの問題はどうするか、その究極はシングルハンドですと言いたいのです。それが自由になる最大公約数ではないかと思うのです。それで、シングルを可能にするにはどうしたら良いか、どんなヨットでもシングルは不可能ではありません。しかし、プロでは無いんですから、そういう事に挑戦しようという話でも無ければ、シングルハンド用に開発されたヨットは、より可能性を大きくし、オーナーの意識の大変革でなくとも、ちょっとした小さな変化でもって、容易に可能となる。その可能性はオーナーを気軽にさせる事もできるし、気軽になれば、乗れる回数も増やせる。回数が増えれば学ぶ事を多く、慣れてもくる。ヨットが解ってくるし、海の事、気象の事、帆走、スピード感、いろんな操作も解ってくる。解ると、人間は面白さを感じてきます。面白さを感じてくるともっと知りたくなる。

ですから、一回でも多く乗れるチャンスを作る事は大事な事かと思います。それには気持ちが軽くなければなりませんし、その為には、シングルハンドヨットが良いと思っています。それで、今やシングルハンドヨットは小型艇から大型まであります。私の知る限り60フィートまでのシングル用に開発されたヨットがあります。ですから、もはやシングルハンドはオーナーが望むなら、大型だって可能になりました。これからは是非、使えるヨットで、どんどん使って、面白演出して、自分で自分を遊んでやるわけです。誰も遊んでくれません。何が面白いのか、それを自分で作ってください。
行動してください。そうこうしているうちに10年なんてあっという間に過ぎてしまいます。いろいろあって試行錯誤だったけど面白い10年、何か面白い物を待ち続けて10年、どちらが良いでしょう。
これなれば面白い、ああなれば面白いのに、では一生面白い事は起きません。行動した分しか面白く無い。では、できるだけ行動できるように、可能性を広げるようにした方が良いと思います。その最大の可能性はシングルハンドによるデイセーリングにあり、と思っています。全ての可能性はここから始まる。

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