セールの形
ジブシート、メインシートを引いたり、出したりするのは、実は風に対しての角度が変わりますが、同時に形も変化しています。ジブセールを想像してください。フォアステーに沿った一辺をラフと呼びます。セールの縦の手前側の辺がリーチです。そして、底辺がフットと言います。ついでながら、三角形の頂点がピーク、ラフとリーチの接点になります。ラフとフットの接点がタック、フットとリーチの接点がクリューです。それぞれに名前があります。覚えてください。名称はメインも同じ名前です。メインセールのラフ、ジブセールのラフ云々という事になります。 風に対して、どういうセールの形を作るか?基本は風が強い時は、セールのカーブを小さく、風が弱い時はセールのカーブを大きくです。カーブが大きいとそれだけ大きな揚力が働き、カーブが小さいと揚力も小さくなります。そして、そこに強い風の方が、弱い風よりも大きな揚力を生み出します。今の風に対して、どれだけのセールカーブ(このカーブをドラフトと言います)を作れば良いかがテーマになります。そして、作ったドラフトのセールはヨットが走る角度に合わせて出したり、引いたりする事になります。メインシートやジブシートを出すだけですと、角度もドラフトも同時に変わります。 ジブセールのクリューにロープが2本。1本は右舷、もう1本は左舷に伸び、サイドデッキに縦に走る棒に前後に動くブロックがあり、それを通して、最後はウィンチに巻かれる。サイドデッキの棒はジェノア(ジブ)トラックと言います。 さて、ジブシートを一杯に引いておく状態から、風を受けて、シートを緩めますと、セールは外側に出ますが、同時に上方にも上がります。フットはピンと張っていたものが緩み、丸くなる。リーチも同じでピンと張っていたのが緩いカーブを描く。つまりは、シートを出したり、引いたりしますと、角度も変わりますが、形も変わっています。これはメインセールも同じ事です。 クローズで走っていて、風が強くなったので、シートを出しました。すると、風が逃げて、ヒール角度が減少します。そうやって、これまでは走ってきました。厳密に言いますと、風が強くなったらシートを出すというのは角度を変えるというより、セールの形を変えて、風を逃がしている事になります。 セールの角度はヨットが走る方角に関係があります。走る方角を変えないで、セールの角度を変えていきますと、少し出したぐらいでは、まだセールはバタバタしない。でも、もっと出すとセールがバタバタしてきます。ヨットの走る方角に対して、セールを出しすぎだからです。つまり、風が強くなったので、シートを出すというのは、角度を変えて風を逃がすのでは無く、本当は形が変わって、セールのリーチが緩んで、そこから風が逃げていく。そういう事になります。 この場合、ヨットの走る方角をも変えるのなら、セールを出した分、角度が変わった分、舵でヨットの進行方向も風下に落とすなら良いのですが、走る角度を変えたくない場合は、違う手を使う事の方が良い事になります。 クローズで走りながら、走る角度は変えたくない。角度を変えたくないなら、セールの角度も変えれない。でも、風は逃がしたい。そういう事になります。でも、シートを緩めたら、セールの角度が変わってしまう。そこで、ジブシートがリードされているブロックに注目です。このブロックはジェノアトラックに設置され、前後に移動する事ができます。ここに意味があります。 ガリバーのように自分自身の体が拡大して、とてつも無くでかくなったと思ってください。或いは、ヨットが模型のように小さいと考えます。指で、ジブのクリューをつまみ、フットとリーチの両方がパンと張る方向に引いてみます。その引く方向がリードブロックの基本位置です。今度は、フットをパンと引いた状態のまま、少し上に持ち上げると、フットは張ったままで、リーチは緩みます。これはリードブロックを後ろに下げた状態です。ジブシートの引く角度が変わる事によってこうなります。リーチが緩み、風を受けて、セールがねじれるようになります。これをツイストと言います。今度は、リーチ側をパンと張った状態で、前側にやりますと、リーチは張ったまま、フットが緩む。これはリードブロックが前側に移動した状態です。フットは丸くカーブを描きます。 メインセールも同じで、ブームを真上に持ち上げるとリーチが緩み、風を受けて、上部がねじれツイストします。下げるとリーチはパンと張る。フットはブームがありますので、アウトホールというロープを引けば、フットは張り、緩めれば、カーブができる。後は、左右の角度だけ。こういう操作をロープを使ってやろうという事です。 ジブシートを引いた時、ジブセールのフットとリーチの両方に均等に力がかかるぐらいが基本位置になります。後は、この位置から状況によって前後に動かす事になります。 場面を想像してください。基本位置にある限り、シートを引けば、フットとリーチの両方に均等に力がかかる。逆に、出せば均等に力が抜ける。でも、シートを出すという事は角度も同時に変わります。通常のクローズで走っている時、風が強くなったので、風を逃がしたい。風はどこから逃げる?セールのリーチが緩んで、ピンと張っていたのが、カーブして、丸くなれば、そこから風が逃げていきます。という事はリーチを緩める事で、風を抜く事ができます。 ジブのリードブロックをジブトラックに沿って、後部側に移動させる。すると、やってみれば解りますが、フットの力はあまり変化せずに、リーチ側だけ緩んでくるのが解ります。それゃあそうです。引いてるシートの角度が変わるからです。ブロックを後方へ移動させる事により、ジブシートの引く角度も後方からとなり、リーチにかかる力が少し弱まります。つまり、こうやって、セールの角度は変えずに、風を抜く。セール上部から風が逃げる事になり、セール下部は角度を保つ。この下部で走り続ける事になります。ジブセールは形がねじれ、ツイストして、上部側がリーチが緩む事によって開きます。この開いた事によって風が抜けていきます。 逆に、風が弱い時は、リードブロックを前側に移動させて、リーチは閉じ、フットは緩くという具合になります。フット側が緩むとドラフトは深くなります。ブロックを基本位置に設置して、シートをいっぱい引きますと、ドラフトは浅くなり、後部に移動させると、セールがねじれて、上部が開き、ブロックを前に移動させると、ドラフトが深くなる。セールの形が変化する状況を想像してみてください。 ジブトラック(ジェノアトラックとも言います)のブロックの前後移動、これについて、前に移動したら、後ろに移動したら、どうなるかを現物を見て観察してみてください。シートの引っ張る角度が変わります。角度が変わったら、セールにどういう影響を与えるのかを観察してみてください。 ところで、通常のクルージング艇には、このジブトラックはありますが、前後に移動する為には、そのトラックのところに行って、自分の手で移動させなければなりません。さらに、セーリング中では ジブシートに大きな風の力がセールを通してかかっていますので、簡単では無い。従って、現在の風上側(使っていない側)のジブトラックのブロックを先に移動させて、そしてタックをします。タックしたら、そこが新たな風下で、新しいブロックの位置になります。そして、走り具合を見て、その位置で良ければ、前の風下側のブロックもそれに合わせる。一度の変更であっていなければ、今、使っていない側のジブトラックのブロックを、多分これぐらいか?という感じの位置に移動させて、再びタック。こうやって合わせます。 この面倒くさいやり方は簡単にする方法は、右、左のトラックに、ブロックを前後に移動させる新たなロープを設置する事です。そうすれば、セーリングしながら、タックもせずに、その今使っているブロックを前後移動させる事ができます。しかも、コクピットから出る事無く。但し、通常のクルージング艇にはこれが設置されていません。それで、必要と思う人のみが後で設置可能です。これは地元の業者さんに相談されれば簡単です。これを使えば、セーリングの状況を見ながら、ブロックを前後に移動できますから、操作は簡単なので、お勧めです。 さて、メインセールですが、これも理屈は同じです。メインシートを出せば、ブームは外側に移動しますが、同時に上側にも上がって、リーチが緩む。でも、メインにはブームがあるので、フットは緩みません。ジブと同じように、走る角度は変えたくない。でも風は逃がしたい。そういう時はセールの角度は変えたくない、リーチだけ緩めたい。そうなります。で、どうするか? メインシートを緩めます。そうしますとリーチが緩む。それで、ブームも外側に出ますから、このブームを元の角度に引き戻したいわけです。リーチの緩みはそのままです。それで、メインには、メインシートトラベラーという、棒状の物がヨット前後に対して、直角に設置してあります。大抵のクルージング艇は、キャビン入り口の向こう側、キャビン天井の上、或いは、コクピットに設置してあります。そこにブロックが設置してあり、そのブロックが左右に動きます。これを使う事になります。 メインシートを出して、セールが外側に出ました。それで、このトラベラーのブロックを反対側にトラベラーを使って、風上側に引き上げます。それで、ブロックを通して繋がれたブームは内側に引き込まれます。この状態はブームの角度は変わらずに、ブームが上に上がった状態にしたわけです。ブームが上がれば、リーチは緩む。上部が開いてツィストします。よって風が逃げる。でも左右の角度は変わらないわけです。 ヨットが走る角度を変えずに、風を逃がすのは、こういう方法があります。実際のヨットを見て、これを移動したら、どうなるのか、シュミレーションしてみます。そして、実践でやってみます。実際はどうなのか?都合良く風が弱くなったり、強くなったりするわけではありませんので、とりあえず、頭の中だけでも想像してみてください。シュミレーションしてみてください。 これらの作業は簡単にできます。しかし、ヨットの奥が深いのは、どれだけの調整をすれば最適か?という事になります。これは何度も経験を積み重ねて、自分のヨットで試しながら、遊びながら、楽しみながら、その奥を探っていく。そういう遊びです。それで、ここまでやってもやらなくてもセーリングはできます。でも、そこまでやれば、また違うセーリングになるという事です。多くのクルージング艇が、そこまではやりません。でも、やった方が面白いですよ、と思います。 ヨットは、初心者レベル程度はあっと言う間に覚えます。後は、そのレベルで楽しむにも、慣れてさえくれば良いわけです。でも、そこから先は少しレベルが上がります。セーリングを楽しむには、そうやってレベルを上げながら、質の向上を目指す。そこがまた面白くなるので、お勧めです。 ここではジブ(ジェノア)トラックとメインシートトラベラーの使い方を覚えてください。ちなみに、ジブの大きいセールがジェノアと言います。 今後、もっと突っ込んで行けば行く程に、大雑把から細かい部分を見る事になっていきますので、繊細にもなり、その複雑さが見えてきます。それらを知識として知って、実践に使えるようになりますと、より深さが見えてきます。しかし、何の為にヨットやるかという基本的な事は面白いから、好奇心をくすぐるから、楽しいから、そういう事だと思いますので、その面白さを常に携える事がもっとも重要だろうと思います。面白く無いなら、こういう事の意味は無くなりますから。でも、知ると面白くなります。解ると面白くなります。そして、できるようになると面白くなるとは思いますが。ですから、やる前に諦めるのでは無く、もうワンプッショしてからというのも大事なのではないでしょうか? |