第八十三話 ドライブ感

このヨットはどんなドライブ感を与えてくれるだろうか?このドライブ感というのは、本当はクルージング艇にとって最も重要なのではないかと思います。ただ、速いとか遅いとかそういう事では無く、どんなドライブ感なのか、微風で、軽風で、強風で、どんな感覚を与えてくれるのか、多分、あまり重要視されてこなかったテーマではないかと思います。

速いけれども波にバンバン叩いて乗り心地が悪いとか、そんな事はどうでも良くて、速い方が良いとか、感というのは個人差がありますので、どれが良いとか悪いとかは区別がつかないと思います。それで、これまであまり考えなかったドライブ感というものを、自分なりに想像する事は必要だろうと思います。

ヨットの選択において、見た目のデザインも重要ですし、大きさも大事、クルーのある無しによってはそういうデザインも大事です。それで結局、最終的にはそれでどんなドライブ感を与えてくれるだろうかという事だと思います。これが面白いか、そうではないかによって、セーリングの味わいは大きく違ってくると思います。極端な例ですが、ヨーロッパではバラスト比70%なんてヨットも出てきました。これなんかは、このドライブ感を突きつめて行った、多くの中のひとつの答えでもあると思います。軽く速いヨット、それでも70%もバラストがあるヨットはどんなドライブ感を与えてくれるだろうか?これは我々の常識を超えています。固定観念を打ち破るような仕様です。これが良いと言っているのではありません。これはひとつのドライブ感です。これを造った人の頭の中に、ひとつの仮説がある。ショート或いはシングルで、速いヨット、それが面白いという仮説です。仮説である以上、絶対では無く、それを好む人、好まない人が居る。このデザイナーはその自分の仮説をどんどん追求していったら、こういうヨットになったのでしょう。速いだけなら、昔からあった。でも、このバラスト比は抜群の安定性をもたらしてくれるでしょうし、軽く造る為にハイテク素材を駆使して、強度的にも構造的にも妥協しない。でも、価格は高い。ここは仕方ないと思ったんでしょう。

逆に、非常に重いヨットがあり、大時化の中でもぐんぐん走り、安心で、波に叩かず、速くは無いが
抜群の安定性は強風での重厚な走りとしてのドライブ感を与えてくれます。こういうヨットは吹いた時に面白いドライブ感が得られる。どちらが上でも下でも無く、造った人の仮説が違うだけです。

ヨットを別荘的に使うのは欧米人は得意だが、日本人には合わないと書いてきました。そして、もっとセーリングそのものを楽しんだ方が良いと書いてきました。これは私のひとつの仮説です。そうなると、セーリングにおけるドライブ感を楽しむという事が重要になります。これまでは、ベッドの数を数えて、何人寝れる、装備は何がある。そういう事から、もっとどんなドライブ感を与えてくれるだろうか、と想像してみてはいかがでしょうか。繰り返しますが、どれが良い悪い、上でも下でも無い。自分の求めるドライブ感はどんなものか?乗らなきゃ解らないが、ちょっと乗ったぐらいじゃ解らない。想像するしかありませんが、そのヨットのデータから、ある程度は想像できるでしょう。全部は解らないものの、ある程度は想像できます。目に見える物に対してお金を支払いますが、大事なのは、この目に見える物が総合して造る目に見えないドライブ感、これが面白いかどうかではないかと思います。全ては相対的で、安心感、スピード感、安定感、全て感ですので、絶対な物はありませんが、この感の為にお金を支払う事になります。そして、この感は見えないものではありますが、見える物と全く違った結果にはそうならない、つまり見える物からある程度想像がつくものではないかと思います。ヨットを見る時このヨットはどんなドライブ感なのか、想像してみてください。

実に捉えどころの無い話ですが、目先をちょっと変えてみたらどうでしょう。ドライブ感はサイズ、重量、セールエリア、強度、構造、艤装とその配置から影響を受けます。風や波は変化しますが、これらは一定です。

次へ      目次へ