第七十六話 学ぶヨット

何かを始めたら、知識をもっと得て、もっとうまくなりたいと思うのが常です。昔は駅のホームで傘をゴルフクラブに見立ててスウィングの練習をしている光景が良く見られました。お父さんは通勤の途中でさえ、練習していた。そして、グリーンに出た時、パカーンと真っ直ぐ、遠くに飛ぶと、何とスカッとした事でしょう。これこそが遊びの原点ではないか。ゴルフに限らず、野球でも、飛んできた打球を華麗にさばき、ファーストへ投げてアウト、実に気持ちが良いし、ホームランを打てば良い気分、カラオケでも聴いてるみんなをシーンとさせようものなら、ぞくぞくします。音楽でもスポーツでも
字でも、絵でも、陶芸でも、始めたらうまくなりたいと思う。上手になったら嬉しいし、カッコイイし、それに今度は自分がその魅力に近づいているのが嬉しくなる。うまくなる事、これはとっても面白いのです。その過程が面白いのです。

ところが、ヨットに関しては、どうもそういう気運にありません。どこどこ行ったとか、行くとか、そんな話は聞きますが、セーリングがどうだったという話はあまり聞きません。うまくなりたいという話も聞かない。何故でしょうか?ヨットだって、うまくなって、もっと快適にセーリングできるようになれば、もっと面白いんです。ところが、ヨットだけは、そうでは無い。ただ、何とか出してセーリングして、帰ってこれるという程度より、うまくなればなる程面白いはずです。

学生時代、学ぶ事は苦痛でした。でも、本当は学ぶ事は面白い事であると気づいた。ワクワクする事でもあります。面白いというのは、快楽を含め、学びも含め、いろんな事があって、それを越えた所にある。ヨットが快楽だけなら、面白くは無い。学ぶからこそ、面白くなる。

そこで、ヨットを面白くする為に、わくわくする為に、ヨットを学びましょうというお奨めです。ヨットは走る、うまく走らせれば、それだけ面白味が解ります。ヨットを学びましょう。学ぶヨットとして、ヨットを捉え、知識を得、実践し、もっと深く、ヨットについて知る。この事が、ヨットを最大限遊ぶ、最高の方法です。そうすると、デイセーリングがぴったりなのです。デイセーリングでヨットの真髄を学び、遠くへのクルージングは息抜き、家族サービス、仲間との交流です。でも、ヨットが最も面白いのは学ぶ事です。

そういう事で、その学ぶヨットについて、これから続く限り、書いていきたいと思います。もちろん、クルージング艇が日常に行うという前提です。

さて、まずは基本的な事ですが、ヨットは風で走る。推進力は風ですが、それを受けるのがセール
そして、そのセールを支えるのがマストで、マストを支えるのが船体、そしてキールで起こして走る。つまりは、セールは走らせるエンジンですが、船体という重い物を引きずっています。という事は
この船体ができるだけセーリングの足を引っ張らないようにする事が大切です。簡単に言えば、船底をできるだけきれいにしておくという事、特にキールの前側のエッジはスムースに水が流れるようにしておく。それにプロペラは大きな抵抗になります。空気中にプロペラがあるのと違って、海水の中では、空気抵抗の800倍もあります。つまり、800倍の抵抗になるという事ですから、これがどれだけ大きなブレーキになっているかが解ります。ですから、フェザリングやフォールディングプロペラがいかに抵抗を無くす役目をしているかが解ります。別にそうでなければならないわけではありませんが、ただ、大きな抵抗を引きずって走っているという事は知っておいて下さい。

船体を引きずるという事は、船体は軽い程良いという事になります。ですが、軽いだけでは駄目で、波や大きな力に耐えうる強度も必要です。強度を増すにはFRP積層を厚くするのが手っ取り早い
でも、重くなりすぎる。そこで、サンドイッチ構造にして、中心に軽い素材(バルサとか、デビニセルとか)を挟んで厚みをつける。厚みをつけると剛性は高まります。強さと軽さのバランスをどこで取るかが造船所の考えるところです。それに、キールの重さもあります。

結局、デザイナーは全体重量とその重心位置、そしてセールプランをデザインして、そのヨットの性格を決める。その性格によって、構造、工法も変わる。そして、それらが最終的に価格として反映されます。FRPと一言で言っても、材質は違います。工法も違う。それらがストレートに強度となって表れる。強いヨットは波にも負けず、風にも負けず、高寿命であるばかりか、トラブルも少なくなる。
でも、重すぎてもいけませんので、いろんな工夫をする、よって高価になる。高価すぎてもいけないので、どこかで妥協する事になります。その妥協点が各造船所によって異なる。まあ、このあたりは造船所の問題ですから、我々はそれを見極める目を持つ、知識を持つ事ですね。でも、簡単な方法は価格です。どこにお金をかけて建造しているか。

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